ベトナムで1年以内に撤退する飲食店の共通点|閉店の前兆と回避策【日系・外資編】 – ベトナム進出支援・飲食店開業・出店ならグローカルコネクション
2026.07.09
ベトナムで1年以内に撤退する飲食店の共通点|閉店の前兆と回避策【日系・外資編】
「ベトナムは日本食ブームで、飲食店を出せば当たる」——そんな話を聞いて視察に来た方は多いはずです。ですが実際には、開業から1年もたずに店をたたむオーナーが後を絶ちません。ベトナムの飲食市場は伸び続けているのに、なぜ短期で撤退する店が生まれるのでしょうか。
この記事は、とくに日系(外資)企業がベトナムで飲食店を開業するケースを前提にまとめています。外資系の飲食店は、現地の個人店とはまったく違うルールとコスト構造の上に立っています。ここを見誤ると、味やメニュー以前に「準備の段階」で撤退が決まってしまいます。
結論からお伝えします。1年以内に撤退する店には、共通するパターンがあります。準備不足に加え、コスト上昇と価格転嫁の難しさに耐えられない店ほど、短期で力尽きやすいのです。逆にいえば、こうしたパターンを事前に潰しておけば、撤退リスクは大きく下げられます。この記事では、短期撤退に共通する8つの落とし穴を事例ベースで整理し、閉店の「前兆」チェックリスト、開業前の回避策、そして撤退時に詰まりやすい実務までまとめました。「自分の計画は大丈夫か」を確かめる材料としてお使いください。
目次
1. データで見るベトナム飲食店の撤退リアル
まず知っておいていただきたいのは、「ベトナムの外食市場は成長しているが、店単位では激しい入れ替わりが起きている」という事実です。
市場全体は伸びています。調査会社iPOSなどによると、2024年のベトナムの飲食業界の売上は約688.8兆VND(約4兆円)で、前年比16.6%増と二桁成長を維持しました。ただし、これは市場全体の話です。日系飲食にとっては、業態・価格帯・商圏を選べば機会がある、という程度に受け止めるのが正確で、「日本食が人気だから出せば当たる」という話ではありません。
一方で、店舗の入れ替わりは激しくなっています。現地報道によれば、2024年上半期だけでF&Bの約3万店が市場から撤退し、2024年6月時点の全国の飲食店数は約30万4,700店と、2023年末比で約4%減少しました。特にホーチミン市では店舗数が約6%減と落ち込みが目立ちました。
ただし、ここは数字をフェアに見ておく必要があります。同じiPOSの通年集計では、2024年末の店舗数は約32万3,010店で、前年末比では逆に1.8%増に回復しています。「上半期に大量閉店が起きた一方、通年では新規開店が上回り、店舗総数はむしろ増えた」というのが実態です。閉店の波と開店の波が同時に押し寄せる、非常に流動的な市場だといえます。
閉店が増えた背景は、個店の準備不足だけではありません。消費の低迷、原材料費・人件費・賃料の上昇、価格に転嫁しきれない収益悪化といったマクロ要因も重なっています。実際、iPOSの調査では、2024年に増収だった事業者は14.7%、横ばいが25.5%で、約6割が減収だったと報じられています。また一部の現地事業者からは「開業3か月未満で閉店する店も増えている」との声も聞かれます。
要するにベトナムの飲食業は、「市場は伸びているが、コスト構造と競争に耐えられない店から淘汰される」二極化のフェーズにあります。準備不足で飛び込めば早期に詰まりやすく、準備しても競争・コスト・人材の壁は残る——これが日系飲食店が向き合う現実です。
2. 【比較表】1年で消える店・生き残る店の分かれ目
短期撤退する店と、しっかり根を張る店。この2つは「開業する前」の時点ですでに差がついています。まず全体像を表で押さえておきましょう。
| 項目 | 1年以内に撤退しやすい店 | 生き残る店 |
|---|---|---|
| 出店の動機 | 短期視察・「ノリ」「勢い」で決定 | 複数回の現地観察と現地の状況と数字に基づいて判断 |
| 物件選び | 短期視察時に出てきた物件で契約 家賃の高さだけで判断 |
用途区分・権利関係・消防等が通る適法物件かを事前調査 |
| ターゲットと価格 | 立地にあわないターゲット選定、価格設計 | ターゲットにあわせて(品質・体験・法人需要・デリバリー等)を設計 |
| 仕入と税務 | 安さ優先で適格請求書を軽視 | 適格請求書(インボイス)を前提に原価と税務を設計 |
| 資金・送金 | 日本に資金があれば大丈夫と考える | 総投資額・定款資本金・DICAを分けて設計 |
| 法務・ライセンス | 信頼関係のない業者へ名義貸しを依頼。 | 外資100%の正規スキームで自社名義を確保 |
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3. 短期撤退する店に共通する8つの落とし穴
ここからは、1年以内に撤退した店に繰り返し見られるパターンを、8つに分けて具体的に見ていきます。「自分の計画に当てはまるものはないか」を確認しながら読んでみてください。
● ① 短期視察・「ノリ」で出店を決めてしまう
最も多い失敗が、旅行や数日の視察で「この街、雰囲気がいいから出そう」と勢いで決めてしまうケースです。
現地で長年経営する起業家は、「最低でも半年〜1年はその土地に住むか通い続け、気候・人・所得水準をよく観察してほしい」と繰り返し警告しています。数日の滞在で見えるのは「良さそう」という表層だけで、雨季の客足の落ち込み、エリアごとの所得差、時間帯別の人通りといった実態は見えません。短期の印象で立地と業態を決めた店ほど、オープン後に「思っていたお客さんが来ない」という現実に直面します。
● ② 物件を「家賃」だけで見て、手続きが通らない
外資系の飲食店では、物件選びの最大のリスクは家賃の高さではなく、「その物件で、外資法人による飲食営業に必要な会社設立・食品安全・消防などの手続きが通るか」です。
特に見落とされがちなのが、物件の用途と事業所在地としての適格性です。住宅用アパート(Chung cư)は原則として非居住目的に使えず、飲食店や会社所在地として利用することはできません。一方、ヴィラ・戸建て・複合用途物件では、土地・建物の用途、建設許可、賃貸人の権限、消防・食品安全要件、当局が事業所在地として受理するかを個別に確認する必要があります。「雰囲気が良いから」「家賃が安いから」と契約しても、あとから会社設立・食品安全・消防・環境などの手続きで止まることがあります。テナント側が短期間で用途変更を前提に進めるのは現実的でないため、契約前のリーガルDD(法的調査)で、最初から飲食営業に使える物件かを確認することが重要です。
権利関係も、ピンクブック(土地使用権等証明書)の有無だけで判断するのは不十分です。所有権・使用権を示す書類、賃貸人の権限、建物の用途、建設・消防関連の書類などが確認できるかを見る必要があります。加えて「転貸(サブリース)」も要注意です。元の賃貸借契約に転貸許可があるか、転貸人が適法な権限を持つかを確認できないと、投資登録証明書(IRC)・企業登録証明書(ERC)や後続の許認可手続きで支障が出ることがあります。
家賃そのものも侮れません。相場はエリア・路面か上階か・居抜きかスケルトンか・契約年数などで大きく変わりますが、目安としてハノイの一般的なエリアで1㎡あたり12〜20ドル、ホーチミン市1区の中心部では20〜90ドルと数倍の開きがあります。売上が立たない開業初期に高額家賃を抱えれば、集客がうまくいっても家賃と原価で利益が消える「家賃負け」に陥ります。
● ③ ターゲットと価格帯の設計を間違える
日系飲食店で特に多いのが、ターゲットと価格帯の設計ミスです。ここには2つの落とし穴があります。
ひとつは「外国人客だけ」を当て込むケース。店舗のキャパにもよりますが、在住日本人の母数は限られており、その層だけを取り合う市場はすぐ飽和します。レタントンやタオディエン、ハノイの日本人街のように在住外国人・出張者で成立する業態もありますが、その場合は商圏人口・来店頻度・客単価・競合密度を必ず数字で検証する必要があります。
もうひとつは、逆に「ローカルと同じ低価格帯」で勝負しようとするケース。ローカル大衆店の価格帯は日系外資店よりも低く、同じ土俵で価格競争をすると、外資に固有の固定費・管理コスト(現地法人維持・ビザ・労働許可・各種手続き・正規の税務労務など)の面でどうしても不利になります。日系外資が低価格ローカル店と同じ土俵で戦うのは不利になりやすいため、品質・体験・立地・安心感・法人需要・デリバリー導線など、価格以外の勝ち筋を設計する必要があります。
● ④ 初期投資を盛りすぎ、回収年数を甘く見る
開業時の内装や設備にお金をかけすぎ、回収が追いつかなくなるケースも定番です。
内装費の目安は、日系クオリティで1㎡あたり350〜700ドル、現地仕様なら250〜400ドル程度。「どうせなら日本のような内装で」とこだわると投資額は一気に膨らみます。経営上の経験則として、初期投資は月商予測の3倍以内に抑える、というのはひとつの目安になります。
ただし回収年数は要注意です。日本の飲食では「3〜4年で回収」がよく語られますが、これはあくまで国内の経験則で、業態・席数・家賃・居抜きかスケルトンか・駐在員の有無で大きく変わります。ベトナムの外資系飲食店は、外資特有のコストや後述する消防・環境対応・資本金の制約、長期化しがちな空家賃が重なるため、3〜4年での回収を前提にしすぎず、3〜5年程度の保守シナリオも置いておくのが安全です。
● ⑤ 運転資金と「送金・資本金の壁」を見落とす
見落とされがちなのが、「開業後、黒字化するまでの運転資金」と「その資金をどうベトナム法人に入れるか」です。
まず、運転資金は「日本の親会社に置いておけばよい」というものではありません。外資企業のIRC申請では、投資プロジェクトの総投資額、定款資本金、借入予定、投資家の財務能力資料が確認されます。家賃・内装費・開業準備費・黒字化までの運転資金を含めて総投資額を設計し、そのうち定款資本金として拠出する部分と、必要に応じて借入等で賄う部分を分けて計画する必要があります。資金計画が薄いと、追加説明や補足資料を求められる可能性があります。
次に、外資特有の「送金と口座の壁」です。外資企業では、資本金の払込、投資資本の移動、利益の海外送金などについて、直接投資資本口座(DICA)を通じた管理が求められます。資本金を誤って通常の決済口座に入れてしまうと、資本金の払込として認められない、または後日の利益送金・撤退時の資金回収で説明や是正が必要になるリスクがあります。
また、ベトナムの企業法では、ERC発行から原則90日以内に定款資本金を払い込む必要があります。ここは「原則」という言葉以上に厳格です。親会社の稟議遅れや銀行の海外送金コンプライアンスチェックの遅延で期限を過ぎてしまうと、後から送金しても資本金として認められず、適法化のために行政罰金の納付と、計画投資局(DPI)での資本拠出スケジュール変更を伴うIRCの修正手続き(1〜2か月)が必要になることがあります。わずかな遅延が設立プロセス全体を数か月止めかねません。開業後に資金が足りなくなっても、日本から自由に送金して運転資金に充てられるわけではなく、増資は投資登録・企業登録の変更を要し、親会社からの借入は借入期間・目的・口座・ベトナム国家銀行への登録要否を確認する必要があります。「日本側に資金があるから大丈夫」ではなく、ベトナム法人に適法に入れられる形で資金計画を作ることが重要です。
● ⑥ 人材・労務・パートナーのトラブル
現地スタッフの労務管理や、パートナーとの関係でつまずくケースも少なくありません。
まず知っておきたいのが、外国人の就労要件の厳しさです。ベトナムで労働許可証(WP)を取得するには、申請する職位区分(専門家・技術者・管理者など)に応じて、学歴や実務経験、公証・領事認証を済ませた証明書類が求められ、その要件は最新の政令に沿って確認する必要があります。ここで重要なのは、「飲食現場での経験があるから大丈夫」とは限らない点です。日本の居酒屋で長く働いた職人や店長でも、申請する職位と学歴・訓練証明・経験証明の整合が取れなければ、労働許可が下りないことがあります。労働許可がないまま就労させると、本人・雇用主双方に行政罰や退去強制等のリスクが生じます。「日本人スタッフを呼べば現場の品質を担保できる」という前提自体が、ビザ・労働許可の壁で崩れ得ることを織り込んでおくべきです。
現地スタッフの労務も、日本とはルールが異なります。労働契約、社会保険、最低賃金、残業・試用期間の扱い、解雇の手続きなどを軽視すると、「日本と同じやり方」を持ち込んだ結果、離職、欠勤、現場の反発、サービス品質の低下につながります。
パートナーについても、「信頼できるかどうか」だけで語るのは危険です。大切なのは信頼よりも権限設計と契約管理です。出資比率、代表者の権限、銀行の署名権、印鑑・会計・税務書類の管理、利益配分、撤退時の持分処理まで契約で固めておかなければ、現地パートナーはむしろ最大のリスクになり得ます。
● ⑦ ライセンス・許認可・名義貸しの落とし穴
「早く安く始めたい」という気持ちから、現地の人に会社の名義を借りる「名義貸し」に頼ってしまうケースです。
大前提として、WTOコミットメント上、レストラン・飲料提供サービスに該当するCPC 642・643は、加盟後8年を経て市場アクセス制限が撤廃され、2015年以降は外資100%での参入が可能とされています。つまり、通常のレストランやカフェで名義貸しを使う合理性は本来高くありません。それでも名義貸しに頼ると、実質出資者・経営者・資金の流れを正しく説明できず、投資登録、税務、銀行のKYC、契約紛争の場面で重大なリスクを抱えます。特に、登記上の所有者や代表者が現地名義人になっている場合、店舗・銀行口座・資産・売上に対する支配権を実質出資者が主張しにくくなり、出資を回収できなくなるおそれがあります。飲食業は外資100%での正規参入が可能な分野だからこそ、最初から自社名義で会社設立と許認可取得の道筋を設計することが重要です。ただし、外資100%で会社を作れることと、物件・食品安全・消防・酒類・小売などの後続許認可が通ることは別問題です。
必要な手続きは「許認可・登録・届出・社内コンプライアンス」に分けて考える必要があります。主なものを整理します。
- 食品安全(VSATTP):食品の製造・取引施設は原則として食品安全条件の証明が必要です。ただし、ホテル内レストラン、小規模・移動販売、一定の認証取得施設など、Decree 15/2018上の例外もあります。実務上は、直接食品を扱う従業員について健康診断や食品安全知識確認に関する資料を求められることがあり、採用・離職が多い飲食店では、店舗側で必要書類を継続的に管理する体制が必要です。
- 消防(PCCC):物件の規模・用途・改装内容によって、必要な設計審査・検収・条件確認が変わります。決定的に重要なのは、テナント区画内でどれだけ設備を整えても、入居する建物全体(ベースビルディング)が消防の最終検収(Nghiệm thu PCCC)を終えていなければ、テナント側の消防承認は下りない、という点です。契約前に家主へ「建物全体のPCCC検収済証」を提示させ、それを賃貸借契約の効力要件に組み込むことが安全です。
- 環境:飲食店でも、排水・油分・臭気・廃棄物の処理は重要です。店舗規模、排水量、入居建物の環境許可・排水設備の状況によっては、環境登録や関連手続きが問題になる場合があります(2020年環境保護法など)。グリストラップ(油水分離槽)、排水処理、建物側の排水設備・下水接続条件は、契約前に確認しておく必要があります。
- 酒類:酒類を扱う場合は、アルコール度数・販売形態(店内消費・持ち帰り・小売・卸)・仕入先に応じて、登録・許可の要否を確認する必要があります(Decree 105/2017)。
- 物販(小売)と輸入:店内で調味料・菓子・グッズなどを持ち帰り用に販売する場合、飲食業とは別に、外資企業の小売権やビジネスライセンス、小売店舗設立ライセンスが関わります(Decree 09/2018)。2店舗目以降では「経済需要審査(ENT)」が問題になる場合がありますが、500㎡未満・ショッピングセンター内・コンビニ等に該当しない等の例外や、制度見直しの議論もあるため、商品・店舗形態ごとに最新の要否を確認してください。さらに「輸入権(Quyền nhập khẩu)」も要注意で、日本から独自の食材・日本酒などを自社で直接輸入して提供・販売するには、ERC・IRCの事業目的に輸入権のコードが登録されている必要があります。設立当初から「飲食業+輸入権(+小売権)」の複合ライセンスで設計しておくのが実務的です。
- フランチャイズ(FC):日本の有名ブランドのFCやマスターFCとして進出する場合、ベトナム商法上、フランチャイザー(日本本部)が1年以上その事業を運営していることが必要で、かつ商工省(MOIT)へのフランチャイズ活動の登録が義務づけられています。これを怠って看板やノウハウを使い始めると、FC契約自体が無効とみなされ、パートナーとのトラブル時に法的保護を受けられなくなるおそれがあります。
● ⑧ 仕入とレッドインボイス(適格請求書)のジレンマ
日系飲食店の資金繰りを静かに、しかし致命的に悪化させるのが「レッドインボイス(VAT適格請求書)」の問題です。
ベトナムでは、伝統的市場などで安く生鮮食品を仕入れると、正規の適格請求書(インボイス)が発行されないことが多くあります。すると、この仕入は法人税の計算上「損金(経費)」として認められず、実際には赤字でも、書類上の利益に対して法人税(標準20%)が課される、という事態が起こります。さらに食品安全の査察で、食材の合法的な産地・トレーサビリティを証明できず、違反として罰金や営業停止の対象になるリスクもあります。
つまり、「適格請求書を出す正規業者からだけ仕入れると原価率が跳ね上がり、安いローカル市場で仕入れると税務・衛生の罰則リスクを負う」というジレンマです。ここを設計せずに走り出すと、原価と税負担の板挟みで資金が痩せていきます。仕入ルートは、価格だけでなく「インボイスが取れるか」「産地が証明できるか」までセットで設計することが、撤退を避ける現実的な一手になります。
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4. 閉店の「前兆」セルフチェックリスト
撤退は、ある日突然やってくるわけではありません。多くの場合、その前に「前兆」が出ています。以下のリストで、いまの計画や状況に当てはまるものがいくつあるかを確認してみてください。
● 開業前の計画段階でのチェック
- 現地に滞在して観察した期間が、通算で数週間以下しかない
- 物件の用途区分(住宅用アパートでないか等)や権利関係・転貸権・建物のPCCC検収を確認していない
- 会社設立・食品安全・消防・環境の手続きが通る見通しが立っていない
- ターゲットが外国人客だけ、または商圏・単価・競合を数字で検証していない
- ローカルと同じ低価格帯で利益が出る前提になっている
- 仕入で適格請求書(インボイス)が取れるルートを設計していない
- 総投資額・定款資本金・DICA・追加送金(増資・親子ローン)の手続きを設計していない
- 日本人スタッフの労働許可(職位区分・学歴/経験・認証書類)を最新政令で確認していない
- 物販や自社輸入を予定しているのに、小売権・輸入権・ENTの要否を確認していない
- FC進出なのに、フランチャイザーの運営実績やMOIT登録を確認していない
- 黒字化までの運転資金(固定費の半年〜1年分)を別途確保していない
● 開業後に出る危険サイン
- 来店客が想定した層とズレている(狙った客単価が取れない)
- 家賃・人件費・原価だけで売上のほとんどが消える
- 仕入のインボイスが揃わず、赤字なのに税負担が重い
- 手元の運転資金が数か月分を切っているのに、追加送金の手当てがない
- スタッフの離職・トラブルが続き、オペレーションが安定しない
- 「あと数か月様子を見よう」を何度も繰り返している
5. 撤退を回避するための事前準備
ここまで見てきた落とし穴は、裏を返せば「開業前にやっておけば防げること」ばかりです。撤退を回避するための準備を整理します。
- ①「住んで観察する」時間を惜しまない:短期視察だけで決めず、可能な範囲で長めに現地に身を置き、時間帯別・曜日別・季節別の人通りや客層を自分の目で確かめます。競合店に実際に通うだけでも、机上の想定との差が見えてきます。
- ② 物件は契約前にリーガルDDを:家賃条件の前に、用途区分が飲食営業に使えるか、建物全体のPCCC検収は済んでいるか、会社設立・食品安全・消防・環境の手続きが通るか、家主・転貸人の権利は適法かを専門家に調べてもらいます。
- ③ ターゲットと価格帯を数字で設計する:外国人客を狙うなら商圏・単価・競合を数値で検証し、価格以外の勝ち筋(品質・体験・法人需要・デリバリー導線など)で収支を組みます。悲観シナリオでも回るかで判断します。
- ④ 仕入と税務をセットで設計する:主要な食材について、適格請求書(インボイス)が取れる仕入ルートと産地証明を確保し、原価率と法人税・食品安全リスクを織り込んだ収支にします。
- ⑤ 資金は「総投資額・定款資本金・送金設計」で考える:運転資金を含む総投資額を設計し、定款資本金と借入等を分け、DICA経由の払込と追加送金(増資・親子ローン、登録要否)まで先に描いておきます。90日ルールの遅延も避けます。回収は3〜5年の保守シナリオも置きます。
- ⑥ ライセンス・法務・労務は正規スキームで固める:名義貸しに頼らず、外資100%での会社設立と、食品安全・消防・環境・酒類・(物販・自社輸入があれば)小売権・輸入権、(FCなら)MOIT登録、日本人スタッフの労働許可の道筋を最初に設計します。
- ⑦ 撤退基準と出口を先に決める:「どこまで赤字が続いたら撤退・業態転換するか」を開業前に決めておくと、感情で判断を先延ばしして損失を膨らませる事態を避けられます。
6. 撤退・閉店を決めたときに詰まりやすい実務
「撤退」を語るなら、閉店の判断だけでなく、実際に店をたたむときの手続きにも触れておく必要があります。まず、店舗だけを閉めるのか、現地法人まで清算するのかで手続きは大きく変わります。店舗だけなら、法人を残して業態変更や別店舗展開に切り替える選択もありますが、法人清算まで行う場合は、税務・労務・債務の処理が一気に重くなります。
法人を清算(閉鎖)する際には、税務コードの終了、未納税・申告状況の確認、税務清算が必要になります。日々の経理で非適格な領収書(前章のレッドインボイスの不備)を費用計上していたり、外国人駐在員の個人所得税(PIT)に申告漏れ・不備があったりすると、追徴課税や罰金が発生し、閉鎖手続きが長期化することがあります。ケースによっては、実地の税務調査や追加資料の対応も求められます。税務義務・罰金・未納が残っていると、税務コードの閉鎖や法人清算が進まず、法人を完全に閉じられないことがあります。
このほか閉じるべき手続きは多岐にわたります。従業員まわりの処理(退職手続き、未払い給与、未消化有給、社会保険の締め、労働契約終了の通知)、賃貸借契約の解除と原状回復(デポジットの扱い、スケルトン戻し、造作の譲渡、厨房設備の売却、看板の撤去)、各種ライセンスの抹消(食品安全・酒類・看板など)、銀行口座やDICAの閉鎖、投資プロジェクトの終了、未払債務の処理などです。撤退は「店を閉めて終わり」ではなく、税務・労務・社会保険・賃貸借・資産処分まで完了して初めて終わる、と考えておくべきです。だからこそ、日々の経理・PIT申告を正しく積み上げ、開業前の段階で出口までイメージしておくことが、傷を最小化する最大の鍵になります。
7. よくある質問(Q&A)
● Q. ベトナムの飲食店は、失敗しやすいのですか?
市場全体は成長を続けており、「ベトナムだから失敗しやすい」わけではありません。2024年は上半期に約3万店が撤退した一方、通年では店舗数が前年比1.8%増に回復しています。伸びている市場ゆえに準備不足の参入が多く、コスト上昇や競争、価格転嫁の難しさに耐えられない店から淘汰されている、というのが正確な理解です。準備を固めれば、チャンスのある市場です。
● Q. 外資(日系)100%で飲食店を持てますか?
はい。レストラン・飲料提供サービス(CPC 642・643)は、WTOコミットメント上の制限が加盟8年後に撤廃され、2015年以降は外資100%での参入が可能とされています。だからこそ、名義貸しに頼る合理性は本来低いといえます。ただし会社設立(IRC・ERC)と、営業に必要な後続の許認可(食品安全・消防・環境・酒類など)は別問題で、投資登録の段階で物件・事業内容・資本金・スケジュールの整合性が見られることもあるため、物件選定の段階から逆算して設計する必要があります。
● Q. 開業までにどれくらいの期間を見ておくべきですか?
「会社設立が済む」ことと「実際に営業を開始できる状態になる」ことは分けて考える必要があります。会社設立自体は比較的短く済む場合もありますが、物件・消防・環境・内装・食品安全・酒類・スタッフ採用まで含めると長期化し、営業開始までは3〜6か月以上を見込むケースが多くなります。特に消防(PCCC)の承認が長引くと、その間の家賃だけが出ていきます。
● Q. 現地パートナーに名義を借りれば、早く安く始められませんか?
名義借りで事業をスタートする飲食店も多いですが、おすすめはできません。飲食は外資100%で参入できるため名義貸しを使う合理性が乏しく、実質出資者・経営支配・資金の流れを説明できず、投資登録・税務・銀行KYC・紛争時の権利保全で重大なリスクを抱えます。登記上の権限を名義人が持つため、店舗・口座・資産の支配権を失い、出資を回収できなくなるおそれもあります。正規スキームでの開業を強くおすすめします。
● Q. すでに開業していて、少し不安があります。今からできることは?
まず本記事の前兆チェックリストで現状を可視化してください。コスト構造(特に家賃比率と運転資金の残り)、狙った客単価が取れているか、仕入のインボイスが揃っているか、追加送金の手当てがあるか、日々の経理やPIT申告が適正かを点検し、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。早く動くほど、業態転換やコスト見直しなど打てる手が多く残ります。
8. まとめ|「大丈夫か不安」なうちに動くのが正解
ベトナムで1年以内に撤退する日系飲食店には、味やセンス以前に、準備段階での共通パターンがあります。最後に要点を整理します。
短期撤退を避ける5つのポイント
- ① 観察と物件調査を惜しまない:短期視察・ノリでの出店を避け、物件はリーガルDDで「用途区分・権利関係・建物のPCCC検収・環境」を確認する
- ② ターゲットと価格を数字で設計:外国人客だけに頼らず、ローカルと同価格帯でも戦わず、価格以外の勝ち筋で組む
- ③ 仕入・資金・送金を設計する:適格請求書の取れる仕入ルートを確保し、総投資額・定款資本金・DICAを分けて設計する
- ④ 法務・労務は正規スキームで:名義貸しを避け、外資100%で自社名義と許認可(食品安全・消防・環境・酒類・小売・輸入・FC登録)、労働許可を固める
- ⑤ 出口を先に決める:撤退基準と、最終税務・出国停止リスクを含む撤退実務を開業前にイメージしておく
「自分の計画は大丈夫だろうか」と不安を感じているなら、それはむしろ健全なサインです。撤退していく店の多くは、その不安に向き合わないまま勢いで走り出してしまいます。逆に、開業前や早い段階でリスクを一つずつ潰していけば、ベトナムの成長市場はしっかりチャンスに変えられます。準備すれば必ず成功するわけではありませんが、準備不足のまま参入すると、資金・許認可・人材・集客のいずれかで早期に詰まりやすいのも事実です。
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▽この記事の監修者
フードコネクションベトナム 林 吉祥
映像制作・フロントエンドエンジニア・WEBデザイナーを経て、2014年よりベトナムへ。
現地法人の立ち上げから携わり、4名の組織を40名まで育てたマネージャー。
長年のホーチミン生活で培ったリアルな視点から、現地の気づきを発信していきます。

