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2026.09.15
ホーチミンとハノイ、日本食市場の実データを検証する
フードコネクションベトナムディレクターの林です。2014年にベトナムに渡り、現在、ベトナム・ホーチミンを拠点に、飲食店様のホームページ制作・広告ディレクションや海外進出支援に携わっており、長年のホーチミン生活で培ったリアルな視点から、現地の気づきを発信していきます。
「ホーチミンとハノイ、日本食で出店するならどちらが有利か」——この問いについて、これまで複数回にわたって検討を重ねてきました。今回はJETROの最新レポート(2026年7月発行)にある数値を確認できましたが、確認を重ねるほど、「この数値で何が言えて、何が言えないか」を精密に線引きすることの方が重要だと分かってきました。本記事では、その線引き自体を記事の中心に据えます。
目次
Foody掲載件数で見る両都市の違い——ただし比較の前提に注意
JETROレポート(2026年7月時点、ベトナム最大手グルメサイトFoodyの分類・掲載数に基づく)によれば、両都市の飲食店・日本料理店のFoody掲載件数は次の通りです。
| 項目 | ホーチミン市 | ハノイ |
|---|---|---|
| 全飲食店Foody掲載件数 | 185,766件(前年比7.4%増) | 73,715件(前年比5.2%増) |
| アジア料理(ベトナム料理除く)掲載件数 | 6,983件 | 3,626件 |
| うち日本料理に分類された掲載件数 | 1,382件(前年比1.6%増) | 589件(前年比4.2%増) |
この数字を見る前に、重要な前提を2つ確認しておく必要があります。
この2つの前提を踏まえると、掲載件数の倍率(全飲食店:約2.52倍、日本料理:約2.35倍、アジア料理:約1.93倍)を「都市の市場規模の差」としてそのまま扱うのは適切ではありません。これはあくまで「Foody上に掲載されたレコード件数の倍率」であり、実際の飲食店供給量や需要規模との対応関係は検証されていません。今回参照した資料からは、統合前の旧市域だけを切り出した数値も確認できませんでした。
なお、前年比の伸び率(ホーチミン:全飲食店7.4%増、日本料理1.6%増)についても注意が必要です。2025年7月の行政区域合併が前年比の基準値にどう反映されているか(旧市域のみで再計算した値と比較しているのか、合併後の地域を通年で遡って計算しているのか)は、今回参照した資料からは明示されていません。したがって、この伸び率が「同一地域内での成長」を示しているのか、「行政区域拡大による見かけ上の増加」を含んでいるのかを、現時点では区別できません。
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消費者調査からの実態——都市別データが存在する項目と、存在しない項目
B&Company社が実施した消費者調査には、2種類の版があります。JETROの要約版(2026年7月発行)と、同じ調査の詳細版(2024年10月実施分をまとめたもの)です。今回、両方を確認したところ、都市別のデータが実際に存在する項目と、存在しない項目が混在していることが分かりました。
● 都市別データが存在する項目:一般的な外食の支出額
詳細版によれば、外食全般(日本食に限らない)の1人1回当たり支出額には、都市による差が明記されています。両都市とも「5〜10万VND」が最も高い割合(28%)ですが、5万VND未満はハノイで18%・ホーチミンで12%、15万VND以上はハノイで39%・ホーチミンで45%となっており、ホーチミンの方が外食1回あたりの支出額がやや大きい傾向が示されています。逆に、調理済み食品(惣菜等)の購入では20万VND以上の割合がハノイ29%・ホーチミン16%と、ハノイの方が高くなっており、外食かテイクアウト・デリバリーかによって都市間の傾向が変わる点も分かりました。
● 都市別データが存在しない、または資料間で食い違う項目:日本食レストランの支出額
一方、日本食レストランに限定した支出額については、都市別の内訳は確認できませんでした。さらに、参照する版によって数字自体が異なります。JETROの2026年7月版サマリーは「20〜30万VND:24%、45万VND超:39%」としていますが、同じ調査の2024年詳細版は「10〜30万VND:35%、30〜50万VND:31%、50万VND以上:28%」としており、区分の取り方も数値も一致しません。再集計や区分変更の可能性がありますが、公開資料だけでは理由を特定できないため、本記事では「日本食レストランの支出額について、参照する版によって異なる数字が示されている」という事実だけを記載します。
● 利用率・ブランド利用率について
直近3か月間に利用したレストラン(料理ジャンル別、複数回答、両都市合算の回答)は、日本料理72%、ベトナム料理84%、韓国料理53%、中国料理28%です(原資料の表現は「外国料理店」ではなく「レストラン(料理国別)」でした)。この調査は一般消費者からの確率標本ではなく、各都市で日本食品・日本食レストランの購入・利用経験者を最低50人ずつ確保する条件で回答者を抽出しており、調査元自身も「分析結果には一定のバイアスが含まれる」「ベトナム消費者全体を代表するものではない」と明記しています。したがって「日本料理72%」は、一般的なベトナム消費者全体の利用率を推定する根拠にはできません。また、これはハノイとホーチミンの回答を合算した数字であり、この調査はハノイ・ホーチミン各200人の等分サンプルであるため、仮に一方の都市が90%、もう一方が54%であっても、単純平均すれば72%になり得ます。都市別の内訳は確認できませんでした。
あわせて、支出額とブランド利用率(Tokyo Deli 42%、Hokkaido Sachi 36%、iSushi 33%など)は、400人全体ではなく、直近3か月に日本食レストランを利用したと回答した人(72%から逆算すると288人程度と推定されますが、これは推定値であり資料に明記された数字ではありません)を分母とした数字である点にも注意してください。
チェーン店の価格帯データ——「都市の価格帯構造」を示すものではない
JETROレポートには、複数店舗を展開する日本食レストランブランドについて、展開都市とメニュー価格帯(最安値〜最高値、千VND単位)が個別に掲載されています。ただし、このデータで「都市の価格帯構造」を比較することはできません。理由は次の3点です。
- 最安値〜最高値は、客単価でも中央値でもありません。例えば、ある店の「25〜36,225千VND」という価格帯は、単品メニューの最安値(JETRO資料の換算レート1円=162.45VNDで約154円)から、最高額メニュー(同約22万円)までの幅であり、実際にどの価格帯に注文が集中しているかは分かりません。
- 多くのブランドが複数都市・複数省にまたがって展開しています。丸亀製麺はハノイ・ハイフォン・フエ・ホーチミンなど全国19店舗、Hatoyamaはハノイ・ハイフォン・クアンニン計8店舗という形で、ハノイとホーチミンの2都市比較には使えない範囲でデータが集計されています(なお、Hatoyamaの最高額メニューが具体的に何かは、今回参照した資料からは確認できていません)。
- ブランドごとの都市別店舗数の内訳は、今回参照したJETRO資料では公開されていません。「CoCo壱番屋はハノイ・ホーチミン計5店舗」という情報からは、それぞれの都市に何店舗あるかは分からず、「ホーチミンの方が同一チェーンの店舗数が多い」と判断する根拠にはなりません(他の資料に都市別内訳が存在する可能性まで否定するものではありません)。
これらの制約を踏まえると、確実に言えるのは「JETROが例示した現存ブランドの中には、両都市とも低価格帯のメニューを持つ店と、高額メニューを持つ店の実例が、少なくとも存在する」というところまでです。「両都市の価格帯構造はほぼ同じ」あるいは「都市によって異なる」のどちらの結論も、このデータからは導けません。
この記事から言えること・言えないこと
- 拡大後の行政区域を対象としたFoody掲載件数では、ホーチミンがハノイより多い(ただし行政区域の違いや前年比の算出方法が不明な点があり、これが実際の店舗供給量・市場規模を示すとは言えない)
- 一般的な外食(日本食に限らない)の1回あたり支出額には都市差があり、ホーチミンの方がやや高い傾向にある(15万VND以上:ホーチミン45% vs ハノイ39%)。一方、調理済み食品のテイクアウトではハノイの方が高い傾向にある
- 各都市で日本食利用経験者を最低50人確保する条件で抽出されたサンプルにおいて、直近3か月の日本料理利用回答が72%だった(一般消費者全体を代表する数字ではない)
- 日本食レストラン限定の支出額については、都市別データが確認できず、かつ参照する資料の版によって数字が異なる
- JETROが例示したブランドの中には、ハノイ展開ブランド・ホーチミン展開ブランドの双方に、低価格帯から高価格帯まで幅広いメニュー価格を掲載した例がある
- 日本食レストランに限定した、都市別の市場規模・利用率・客単価・価格帯構造(一般外食の支出額には都市差が確認できましたが、日本食に絞ったデータは都市別に分離されていない、または行政区域が不揃いなため)
- どちらの都市が特定の業態・価格帯で「成立しやすい」か(採算性・生存率のデータが未確認)
- 現存する店舗の存在から、その価格帯・業態が実際に採算を取れているかどうか(撤退店舗の情報が欠落する生存者バイアスの問題が残る)
今回の一連の作業を通じて分かったのは、「実データがある」ことと「そのデータが出店判断に使える精度を持つ」ことは別問題だということです。出店都市の最終判断には、行政区域や集計方法の違いまで踏み込んで検証できる、より粒度の細かい情報(可能であれば候補エリア単位の現地調査)が必要になります。
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▽この記事の監修者
フードコネクションベトナム 林 吉祥
映像制作・フロントエンドエンジニア・WEBデザイナーを経て、2014年よりベトナムへ。
現地法人の立ち上げから携わり、4名の組織を40名まで育てたマネージャー。
長年のホーチミン生活で培ったリアルな視点から、現地の気づきを発信していきます。

