あの店は何をしてきたのか?!ホーチミンで長年愛される日系飲食店に共通すること – ベトナム進出支援・飲食店開業・出店ならグローカルコネクション
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あの店は何をしてきたのか?!ホーチミンで長年愛される日系飲食店に共通すること
フードコネクションベトナムディレクターの林です。2014年にベトナムに渡り、現在、ベトナム・ホーチミンを拠点に、飲食店様のホームページ制作・広告ディレクションや海外進出支援に携わっており、長年のホーチミン生活で培ったリアルな視点から、現地の気づきを発信していきます。
ホーチミンの日本人街、レタントン通りとタイバンルン通り。この一帯には日本語の看板が並び、日本の居酒屋と変わらない店が軒を連ねています。
ところが、この街の店の入れ替わりは驚くほど早い。かつて定番だった焼肉店も、いつも賑わっていた居酒屋も、気づけば姿を消しています。
その一方で、10年前後、あるいはそれ以上にわたって営業を続けている店が確かにあります。
残っている店は、この十数年で何をしてきたのでしょうか。
この記事では、長く続いている日系飲食店を挙げながら、統計とそれぞれの足跡から見えてくるものを整理します。ベトナムへの出店を検討されている方にとって、出店前に決めておくべきことが見えてくるはずです。
目次
在留邦人は減り、日本食店は増えている
まず、多くの方が持っている前提を崩させてください。
「ベトナムには日本人駐在員がたくさんいるから、日本食を出せば食べに来てくれる」
この考え方は、10年前なら正しかったかもしれません。しかし今のホーチミンでは、もう成立しなくなっています。
● ホーチミンの在留邦人は、4年で1,500人以上減った
外務省が毎年公表している「海外在留邦人数調査統計」で、ホーチミン市の在留邦人数を追ってみます。
| 年(各年10月1日時点) | ホーチミン市の在留邦人数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2021年 | 10,768人 | -13.7% |
| 2022年 | 10,475人 | -2.7% |
| 2023年 | 10,063人 | -3.9% |
| 2024年 | 9,732人 | -3.3% |
| 2025年 | 9,249人 | -5.0% |
この4年間で1,519人、率にして約14%の減少です。しかも2024年の統計で1万人を割り込み、その後も減少が止まっていません。
ベトナム全体では2021年の22,185人から2025年には16,636人へ、約25%の減少です。なおこの統計は在留届などに基づく推計で、短期出張者や旅行者は含まれません。
● 一方で、日本食レストランは200店増えた
では、店の数はどうなっているでしょうか。
農林水産省が2025年11月に公表した「海外における日本食レストランの国・地域別概数」によると、ベトナム国内の日本食レストランは約1,820店。2023年の前回調査の約1,620店から、200店の増加です。
ただし、ベトナムの増加が突出しているわけではありません。同じ調査ではインドネシアが2,580店、韓国が1,590店増えています。全世界の約6,000店減も、中国の約1万5,260店減が他の国・地域の増加を上回った結果で、中国を除けば世界の日本食店はむしろ増えています。
言えるのは、2023年の調査から2025年の調査で約200店増えたという一点です。これは現地で日本食レストランとして認識されている店の概数なので、開業と閉店の内訳までは分かりません。またこの1,820店は日系資本に限った数字ではなく、ベトナム資本が運営する日本食店も含まれます。競合は日系同士だけではない、ということです。もっとも価格帯が違えば、数字の上で並んでいても直接の競合とは限りません。
住んでいる日本人が減り、店は増える。在住日本人だけを当てにした計画には、人口の減少をリスクとして織り込む必要があるということです。客単価や来店頻度が上がれば人数の減少は補えますし、競合から客を取れば個店の売上は伸びます。それでも、在留邦人が増える前提で計画を組める時代ではありません。
● レタントン一極集中では、なくなった
減少と同時に、もうひとつの変化が起きています。在住日本人の生活圏が、レタントン一帯だけではなくなったことです。
その代表が、ビンタン区のファンビッチャン通りです。1区中心部から約3km、レタントンからは徒歩15〜20分ほどの、マンションに囲まれた小さな通り。かつてはほとんど知られていなかったこの通りに、手頃な価格帯のサービスアパートが増え、日本人居住者が集まり、飲食店も次々と出店しました。いまでは「第2の日本人街」と呼ばれています。
同じことが、日本人学校のある7区や、在住外国人の多い2区タオディエンでも起きています。
つまり在住日本人の市場は、減っていて、しかもレタントンだけにあるのではない。レタントンの飲食店は、この状況のなかに置かれています。
それでも残っている店がある
ここまでの数字だけを見れば、絶望的にも思えます。ところが実際には、長く営業を続けている日系飲食店が確かに存在します。在住者に「昔からある店」として名前が挙がる店を並べてみます。
| 店名 | 業態 | その後の動き |
|---|---|---|
| 膳サイゴン | 和食 | レタントンの同じ場所で改装リニューアル |
| お好み焼き秀 | お好み焼き | レタントンで営業を継続 |
| 牛めし屋 | 牛めし | レタントンで営業を継続 |
| 岐阜屋 | 居酒屋 | レタントンで営業を継続 |
| Kaki no Ki | イタリアン | オープン当初からファンビッチャン |
| 個室旬彩炙り あん | 和食・個室 | ファンビッチャンに出店 |
| 寿司きよ田 | 寿司 | ファンビッチャンのエリア内で店舗増 |
| 肴や | 居酒屋 | レタントンからファンビッチャンへ移転 |
| えびす | 居酒屋・讃岐うどん | 移転後、2区にも出店。レタントンで別業態も展開 |
| ぎゅう丸 | ハンバーグ・ステーキ | 7区に出店 |
| 焼肉にくたろう | 焼肉 | レタントン内で移転、7区にも出店 |
| わか葉 | 和食 | ビンズンに2号店 |
| 満マル | 屋台居酒屋 | 別エリアに出店 |
| ラーメン暖暮 | 博多とんこつラーメン | タイバンルンに加えタオディエンにも出店 |
| 鶏笑 | 鶏料理・唐揚げ | ファンビッチャンに出店 |
| 焼酎バー満月 | 焼酎バー | レタントン、タイバンルンに加えダナンにも出店 |
業態はばらばらです。和食も、寿司も、お好み焼きも、イタリアンもある。「これをやれば生き残れる」という共通の正解は、この一覧からは見つかりません。
ただし、2つの軸で見ると景色が変わります。
ひとつは誰を客にしているか。もうひとつは、店がその後どう動いたかです。
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残った店と、動いた店
一覧表の右側の列を眺めてください。ほとんどの店が、どこかで動いています。移転し、店を増やし、業態を足し、作り替えている。「長く続いている」という事実の中身は、想像よりずっと動的です。
● 客のいる場所へ、店を広げる
前章で見たとおり、在住日本人の生活圏は広がりました。それと並行して、店も広がっています。
- ファンビッチャンへ:個室旬彩炙り あん、鶏笑が出店。肴やはレタントンから移転し、寿司きよ田はこのエリア内で店舗を増やしています。なお「Kaki no Ki」は、このエリアが第2の日本人街と呼ばれる前から店を構えていました
- 7区へ:ぎゅう丸、焼肉にくたろうが出店。日本人学校があり、家族帯同の駐在員が多いエリアです
- 2区タオディエンへ:えびす、ラーメン暖暮が出店。在住外国人が多く、客層そのものが変わります
- ビンズンへ:わか葉が2号店を展開。工業団地が集積するエリアで、日系メーカーの駐在員が多く暮らします(2025年7月の行政再編でホーチミン市に統合されました)
- ダナンへ:焼酎バー満月が進出。都市そのものを越えた例です
同じ業態で日本人街の中に2店舗目を出せば、同じ客を自分の店同士で奪い合いやすくなります。エリアを変えれば、その重なりは小さくなる。もっとも、通勤や配達の範囲まで考えれば商圏が完全に分かれるわけではありません。それでも、2店舗目をどこに出すかは、立地の問題ではなく、どの客層を取りにいくかの決断です。
● 場所ではなく、業態を足す
エリアを広げるだけが手ではありません。日本人街の中でも、業態を変えれば2店舗目を出せます。
「えびす」は、レタントンで讃岐うどんと居酒屋を営みながら、同じ日本人街の中に焼き鳥と餃子を主体とした別ブランドの店も出しています。同じ客層に対して、違う用途で二度選ばれる設計です。
うどんの気分の日と、焼き鳥の日は違う。客数が限られた市場では、来店回数を増やすことがひとつの答えになります。
● 同じ場所で、作り替える
一方で、開業したときと同じ場所で営業を続けている店もあります。お好み焼き秀、牛めし屋、岐阜屋。客の行き先が広がるなかでも、この場所で選ばれ続けている店です。
ただし、動かないことが「何もしていない」ことを意味するわけではありません。「膳サイゴン」はレタントンの同じ場所で店舗を改装リニューアルしています。場所を変えない代わりに、中身を作り替えているのです。
長いあいだ内装も什器もメニューも変えずにいられる店はありません。動かない店には、動かない店なりの投資が要ります。
● 契約更新が、通るとは限らない
ここで、日本で店をやっている方には馴染みのない話をしておきます。
ベトナムでは、物件の賃貸契約が更新できるとは限りません。
オーナー側の事情で更新を断られ、退去せざるを得なくなることがあります。売上が順調でも、客がついていても、関係ありません。契約が切れれば、その場所での営業は終わります。
日本にも定期借家のように更新のない形式はありますし、普通借家でも貸主が正当事由を示せば更新を拒めます。それでも多くのオーナーは「問題がなければ続けられる」前提で内装に投資しているはずです。ベトナムでは、その前提を持ち込めません。
大切なのは、契約でどこまで守られているかを最初に確かめておくことです。確定した賃貸期間、更新の条件と賃料の決め方、中途解約時の通知と補償、保証金の返還と原状回復の範囲。ここを詰めずに内装へ投資すると、回収前に打ち切られる可能性が残ります。
この街で移転した店のすべてが、前向きな理由で動いたわけではありません。戦略的な判断ではなく、更新が通らずやむを得ず動いたケースもあります。外から見れば「エリアを移して成功した」に映る動きが、実際には移らざるを得なかった結果だった、ということが起こります。
● 動かされたときに、動けるか
ここまでを踏まえると、ひとつの見立てが立ちます。効いているのは「動いた」ことそのものではなく、動かなければならなくなったときに動けたことではないか。
断っておくと、これは各店の契約や資金を確認して得た結論ではありません。一覧表から分かるのは移転・増店・改装があったという事実までで、そのうちどれが強いられた動きだったのかまでは追えていません。長く続いた店ほど動く機会も多くなるので、動いた経験は存続の原因ではなく結果かもしれない、という見方も成り立ちます。
それでも、これから出す側が備えとして持っておく価値のある視点だと思います。
- 移転費用を出せる余力があったか
- 次の物件のあてがあったか
- 2店舗目があって、1店舗を失っても売上の空白を耐えられたか
- そもそも、その場所でしか成立しない業態ではなかったか
付け加えると、移転は物件を借り直せば終わりではありません。登記の手続きが要りますし、食品安全や消防についても、新しい物件と運営形態に応じて何が必要かを確認する必要があります。工事と手続きの期間中、旧店舗と新店舗の家賃が重なることもある。「動く」には、思っているより時間と費用がかかります。
料理も接客も評判がよかったのに姿を消した店は、決して珍しくありません。動かされたときに動けなかった、という分かれ方もあります。
一方、同じ場所で続けている店は、客の行き先が広がるなかでも、そこで選ばれ続けています。動く必要がなかったのか、動かなくても勝てているのか。外からは分かりません。ただ、どちらにしても、選択肢を持っているかどうかが効きます。
もうひとつ効いてくるのが現地での関係です。物件オーナーとの付き合い、近隣、長く働いてくれるスタッフの縁。契約や物件をめぐる場面で、こうした関係が次の一手を左右することがあります。
出店するならどこがいい?!ベトナムのエリア特性と物件の探し方
パターン①|在住日本人の「日常」を握る
ここからは、客層による違いを見ていきます。まずは在住日本人を主客とする店です。この客層は毎年減り、しかも散らばっている。それでも長く続いている店には、限られたパイを確実に取り切る方法があります。
● 一日に三度、売上を立てる
長く続いている店の多くは、複数の収入源を持っています。
- ランチ:平日昼の定食需要。近隣オフィスの日本人スタッフが繰り返し来る
- 接待・会食:個室があるかどうかで受けられる仕事が変わる
- 宴会:歓送迎会、忘年会、日系企業の部署単位の集まり
夜の一杯だけで成り立たせようとすると、客数の減少がそのまま売上に響きます。「個室旬彩炙り あん」が店名に個室を掲げているのは、接待需要がそれだけ重要だからでしょう。
ただし、入口が複数あることと、独立した収益源を持つことは別です。ランチも接待も宴会も同じ日系企業の予算に支えられているなら、減るときは同時に減ります。
● 家賃を抑える——ヘム(路地)という選択肢
ホーチミンでは、大通りに面した路面店と、ヘムと呼ばれる路地の奥にある物件とで家賃に大きな開きがあります。ヘムは看板が通りから見えず初めての客は入りにくい。その代わり賃料を抑えられます。
ただし、順番を間違えないでください。家賃より先に確認すべきは、その物件で飲食営業を合法的に行えるかです。建物の用途、貸主の賃貸権限、改装の可否、消防と避難、厨房の排気と排水。適合工事に費用がかさめば、安い賃料の意味はなくなります。
在住日本人向けの店にとって、これは決定的な不利にはなりません。この客層の多くは、看板を見て入ってくる客ではないからです。同僚に教えてもらい、一度行ったら繰り返し通う。通りがかりの新規客に依存しない業態なら、路面である必要は薄れます。
実際、ここで挙げた店のうち牛めし屋、岐阜屋、ラーメン暖暮、鶏笑はヘムに店を構えています。注目したいのは、このうち暖暮と鶏笑がベトナム人や他の外国人客の多い店だということです。ヘムは「日本人客向けだから成立する」選択肢ではありません。目的を持って来てもらえる店なら、客の国籍にかかわらず路地でも成り立ちます。
日本で店を出すときは、駅からの距離や人通りが最重要になります。しかしホーチミンでは、人通りの優先順位は下がります。ここを間違えて一等地の路面を借りると、売上が読める業態でも固定費に押し潰されます。
● 口コミが最大の武器であり、最大のリスク
在住日本人のコミュニティは、想像以上に狭い世界です。外食に出る層は9,249人よりさらに限られ、互いに顔見知りであることも珍しくありません。一度「あの店はいい」と評価されれば口コミは速く広がり、逆方向にも同じ速さで働きます。日本国内なら埋もれる小さな失敗が、この街では評判を左右します。
● 何の店かを、絞り切る
長く続いている店をもう一度眺めると、やることを絞っている店が目立ちます。
「ぎゅう丸」はハンバーグとステーキ、「お好み焼き秀」はお好み焼き、「牛めし屋」は牛めし。何を食べに行く店なのかが、店名を聞いた瞬間にわかります。
海外で店を出すと、つい品数を増やしたくなります。しかし品数が増えれば、仕込みもロスも、スタッフに教える工程も増える。日本料理の経験者を採用できる前提がない以上、教育の手間は重くなりがちです。絞ることは、味の水準を保つための現実的な手段でもあります。ただし一覧には、総合的な和食店や居酒屋も並んでいます。絞るか広げるかに正解があるのではなく、選んだ方を回せる体制があるかです。
● 日本食である必要すらない
興味深いのは、この一覧に「Kaki no Ki」というイタリアンが入っていることです。しかも日本人街ではなく、ファンビッチャンに開業当初から店を構えています。
在住日本人向けの店だからといって、和食である必要はありません。大切なのは、在住日本人の生活に組み込まれることです。たまにはパスタが食べたい、家族で行ける洋食の店が欲しい。そうした需要を押さえた店は、和食店と同じように長く続きます。
パターン②|日本人以外に客層を開く
もうひとつの道が、日本人以外の客を主な客層にすることです。
在住日本人ではなく、ベトナム人や、韓国人をはじめとする他の国の在住外国人を相手にする。この客層が増えているかどうかまでは、在留邦人数のように数字で確かめたわけではありません。ただ、母数の大きさが違うのは確かです。在住日本人は9,249人。その外側には、比べものにならない数の人がいます。そのうちどれだけを取れるかは、店の設計次第です。
● 満マルの客の多くは、日本人ではない
レタントンにある「満マル」は、大阪を中心に70店舗以上を展開する屋台居酒屋の海外店です。
2023年時点の取材ではベトナム人や日本人以外の外国人客が約7割、日本人客が約3割とされていました。そして現地で見ている限り、いまは日本人客が1〜2割程度という印象です。数えたわけではなく、あくまで体感です。
これは比率の話であって人数の話ではありません。全体の来店数が増えていれば、比率が下がっても日本人客の人数は減っていない可能性があります。取材値と体感を同じ精度で並べることもできません。
それでも、日本人以外の利用が多いことは確かです。在住日本人だけを客層にしていた場合と比べて、広い土台の上に立っています。
● 「説明のいらない料理」という共通点
満マル、ラーメン暖暮、鶏笑。この3軒に共通しているのは、何を出す店なのかが一目でわかることです。串と屋台料理、博多とんこつラーメン、鶏料理と唐揚げ。
串焼きも唐揚げも、目で見れば分かる。注文のハードルが低く、初めての客でも入りやすい。ラーメンはさらに有利です。ベトナムにはフォーやブンの麺文化が根づいていて、丼から麺をすする食べ方そのものが日常だからです。
これに対して和食のコースや出汁の効いた煮物は、まず「これは何か」を理解してもらう段階が要ります。その一段が、日本語を話さない客との間では壁になります。
もっとも「分かりやすい料理でなければ通用しない」という話ではありません。ベトナムでは高級寿司も焼肉もしゃぶしゃぶも支持を得ています。説明が要る料理は、その説明ごと体験として売れれば強い。最初の一歩を軽くするのか、説明を価値に変えるのか。どちらで行くかを決めておく、ということです。
● 営業時間で客層をずらす
もうひとつの工夫が、営業時間です。
在住日本人の会食は、日付が変わる前に引けることがほとんどです。一方で、そこから飲みはじめる客層もいます。
「焼酎バー満月」がベトナム人客や韓国人客を集めているのも、バーという業態と、遅い時間まで開いていることが効いています。「ラーメン暖暮」も深夜まで営業し、飲んだ後の客を取り込む。同じ席数、同じ家賃で一日に二つの客層を回す時間帯のすみ分けは、小さな店でも実行できます。
ただし家賃が同じでも、人件費は同じではありません。ベトナムの労働法では夜間労働に割増賃金が定められています。深夜の売上から人件費や光熱費を引いて利益が残るかは、業態ごとに確かめる必要があります。
● 味の中心は動かさず、届け方だけを変える
「ラーメン暖暮」は、スープの要となる調味料を日本から輸入しているといいます。味そのものは日本のまま動かさない。その上で、出店するエリアと営業時間を広げ、客層を開いています。
日本人以外の客を取りにいくことは、日本の味を捨てることではありません。核を守ることと、辛さや量を現地に合わせることは両立します。何を守り、何を調整するのか。そこを決めずに始めると、判断がその場しのぎになります。
ただし、価格だけは日本の感覚では決められません。日常的な利用を増やしたいのに日本と同じ価格では、来店頻度が上がりにくい。かといって安さで勝負すれば、はるかに安いローカル店と同じ土俵に立ちます。この線引きは、現地の相場を肌で知らないとできません。
● さらに振り切った店もある
ここまでは「日本人街にいながら、日本人以外の客も取り込む」というやり方でした。同じ方向をさらに進んで、ベトナム人客が主客になり、事業の規模そのものが変わった店もあります。日本式焼肉の「浦江亭」と「Pizza 4P’s」です。
興味深いのは、どちらも最初からそうだったわけではないことです。4P’sは創業者自身が、開業当初の客はほぼ日本人で、1〜2年かけて外国人と半々になり、やがてベトナム人客が7割になったと語っています。浦江亭も、当初は日本人客しか来ず苦労した時期を経て、移転と大型化に踏み切りました。
始まりは日本人客。そこから客層が変わっていった。店が意図して組み替えたのか、店を増やすうちにそうなったのかは、外からは分かりません。それでも、最初から現地の客に囲まれていたわけではない、という事実は覚えておく価値があります。
この2店については別の記事で詳しく取り上げているので、そちらをご覧ください。
なぜベトナム人は日系飲食店に殺到するのか?現地で支持を広げる4ブランドの成功パターン
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どちらの客層を狙うべきか、迷われている方へ
どの客層を主軸に置くかで、選ぶべき物件も、内装も、価格設定も変わります。フードコネクションベトナムの現地視察プランでは、実際に両タイプの店を見ていただきながら、ご自身の業態に合う方向を一緒に検討します。
まとめ|出店前に決めておきたいこと
ホーチミンで長く続いている日系飲食店を見てきました。一覧から言えるのは、多くの店が移転・増店・改装のどこかで手を打っていること、そして開業時と同じ場所で続けている店もあることです。誰にどう売っているかは、店名と業態から推し量ったもので、一軒ずつ確かめたわけではありません。
それが長く続いた「理由」なのかも、この記事では確かめられていません。ただ、これから出す側が考えるべき論点にはなります。以下は答えではなく、出店前に決めておきたいことのリストです。
在住日本人を主客にするなら
- 在留邦人が増える前提では組まない。横ばいと減少の両方で採算を確かめる
- ランチ・接待・宴会の複数の収入源を用意する
- 物件は、まず飲食営業を合法的に行えるかを確かめ、適合工事費まで含めた総額で判断する
- 専門型でいくか、総合型でいくか。選んだ方を回せる体制があるかを確かめる
日本人以外を主客にするなら
- 最初の一歩を軽くするのか、説明ごと体験として売るのか。どちらで行くかを決める
- 営業時間で客層をずらすことを検討する
- 味の中心は動かさず、価格と届け方を現地に合わせる
- 日本人客はあくまで一部として計算に入れる
そして、どちらを選ぶにしても
- 契約更新が通らない可能性を、最初から資金計画に入れておく
- 1店舗にすべてを注ぎ込まず、動く余力を残す(ただし2店舗目は、利益と現金を生んで初めて支えになります)
- その場所でしか成立しない業態を避ける
- 続ける・移る・畳むを、そのつど採算で比べる(畳むことは失敗ではありません。移転費用を出せても、回収できないなら移らない方がいい)
ここで見てきたのはいま残っている店だけで、同じことをして消えた店があったかは分かりません。
気をつけたいのは、誰にどんな価値を出すのかを決めないまま出店することです。日本人にも来てほしいし、ベトナム人にも来てほしい。その願いは自然ですが、決めないまま進めると立地も内装も価格も中途半端になります。複数の客層を狙うこと自体が悪いのではなく、狙いが定まらないことが問題です。
そして、この判断材料は机の上だけではそろいません。レタントンとファンビッチャンの違い、ヘムの物件の実際、ベトナム人客が入っている店の様子。
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▽この記事の監修者
フードコネクションベトナム 林 吉祥
映像制作・フロントエンドエンジニア・WEBデザイナーを経て、2014年よりベトナムへ。
現地法人の立ち上げから携わり、4名の組織を40名まで育てたマネージャー。
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