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2026.10.21
ベトナム現地法人の「実質的支配者(BO)」申告とは?罰則と飲食店オーナーの確認手順【2026年10月】
フードコネクションベトナムディレクターの林です。2014年にベトナムに渡り、現在、ベトナム・ホーチミンを拠点に、飲食店様のホームページ制作・広告ディレクションや海外進出支援に携わっており、長年のホーチミン生活で培ったリアルな視点から、現地の気づきを発信していきます。
2026年10月7日付で、ベトナム財務省の部局が各省・市の財務局に、ある公文書(3164/DNTN-GS)を送りました。内容は、実質的支配者(BO:Beneficial Owner。会社を最終的に所有・支配する個人)の情報の申告が確認できない企業を、優先して点検するよう求めるものです。報道では、対象リストは42,911社、うちホーチミン市は9,371社で全国最多とされています。
現地法人を持つ日本の飲食店オーナーが気になるのは、次の3点だと思います。
- 自社は確認の対象になりうるのか
- 申告しないと、罰金はいくらなのか
- いつまでに、何をすればよいのか
先に結論をまとめます。
- 確認リストの対象は、2025年7月1日以降に設立または変更登記をした会社で、BO情報がないものです。
- 罰金は、設立時の未申告か、変更登記時の未補充かなどで金額が分かれます。ニュースの「7,000万〜1億ドン」は、その一部の区分です。
- 法定の申告・補充・変更通知の時期(設立時、次の変更登録時、変更から10日以内)とは別に、一部の自治体が点検に伴う提出期限を案内しています。クアンニン省は10月31日(二次情報で、通知の原文は未確認)、ダナン市は11月30日です。ホーチミン市は、2026年10月21日時点で同様の通知を確認できていません。
※本記事は2026年10月時点の法令・公開情報にもとづいています。
※本記事の対象は、ベトナムに設立した有限会社・株式会社などの法人です。支店・駐在員事務所、個人事業(hộ kinh doanh)は扱いません。
目次
何が起きている?公文書3164号と4万3千社の確認
3164/DNTN-GS号は、財務省の民間企業・集団経済発展局(Cục Phát triển doanh nghiệp tư nhân và kinh tế tập thể)が2026年10月7日に出した公文書です。宛先は、各省・市の財務局(Sở Tài chính)です。
背景には、2026年9月3日付の公文書13767/BTC-DNTNがあります。省レベルの企業登記機関に、2026年の残り4か月でBO関連の内容を集中的に確認するよう求めたものです。3164号は、その確認の対象となる会社のリストを各地に配る文書だと整理できます。
リストの条件は、次のとおりです。
- 2025年7月1日以降に設立、または変更登記をした
- それにもかかわらず、BOの申告情報がない
報道によると、該当は合計42,911社です。ホーチミン市が9,371社、ハノイ市が7,826社、タイニン省が2,615社、バクニン省が2,264社、ハイフォン市が2,233社と続きます。ホーチミン市が最多ですが、これは全業種の件数です。リストに載ったことは、違反が認定されたことを意味せず、あくまで確認の対象です。
ここで押さえたいのは、これが「企業向けの新しい義務や新しい期限」ではないことです。すでに存在するBOの申告ルールについて、当局が履行状況を点検する動きです。ニュースでは罰金や10月末の期限が同じ記事に並びますが、別々の文書に由来します。この記事でも分けて説明します。
実質的支配者(BO)とは?誰を書くのか
BOは「Beneficial Owner」の略で、日本語では実質的支配者といいます(ベトナム語では chủ sở hữu hưởng lợi)。会社を最終的に所有または支配している「個人」のことです。登記上の株主・出資者だけで判断せず、最終的に所有または支配する個人を特定します。登記上の個人株主自身がBOに該当する場合もあります。
根拠は、2025年7月1日施行の改正企業法(76/2025/QH15)と、政令168/2025/NĐ-CPの第17条・第18条です。この条文は、2026年7月23日施行の政令296/2026/NĐ-CPで改正されました。決め方は3段階です。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 出資割合で判定する。資本金または議決権株式の25%以上を、直接・間接に持つ個人(直接と間接の合算も可) |
| 2 | 1で決まらない、または1の人が実態と違うときは、実際の支配力(役員の任免、定款の変更、財務・投資・事業方針の決定など)で判定する |
| 3 | 1・2でも決まらないときは、会社を代表して動く最も権限の大きい管理者を書く |
政令296号による主な変更点は、次のとおりです。
- 直接保有と間接保有を合算する(たとえば直接15%と間接15%で、合計30%)
- 法令で定める家族関係のある人や、契約で一緒に保有する人は、合算して25%以上なら全員がBOになる
- 信託などの法的な取り決めを通じた間接保有も、判定の対象になる
- 他人の名義を借りた出資は禁止になる
日系の飲食店でよくある形で考えてみます。ベトナム法人が日本の株式会社の100%子会社の場合、日本の親会社の背後にいる個人まで、たどる必要があります。その個人が日本の親会社を通じて25%以上を間接的に持っていれば、その人がBOです。オーナー社長が1人で親会社を持っている会社なら、多くの場合、その社長です。複数の株主に分かれ、誰も25%に届かない場合は、第2段階の「実際の支配力」を検討します。
注意点が2つあります。まず、BOとして記載できるのは個人で、法人をBOとして書くことはできません。ただし、BOにたどり着くための出資構造(法人株主など)の情報は、別に求められる提出項目がないか確認が必要です。次に、日本の親会社が上場企業や投資ファンドなどの場合や、出資構造が何層にもなる場合の扱いは、解釈が分かれる可能性があります。この場合は当局への確認をおすすめします。
自社は対象?設立時期と変更登記で見る確認チェック
今回報道されたリストの抽出条件は、2025年7月1日以降の設立または変更登記で、BO情報がないことです。ただし、リストへの掲載の有無だけで、申告義務や点検対象になる可能性が決まるわけではありません。自社との関係は、設立時期、変更登録・変更通知の履歴、BO情報の登録状況から確認します。
| 状況 | BOの申告が必要になるタイミング |
|---|---|
| 2025年7月1日以降に設立 | 設立登記の時点で申告が必要。未申告ならリスト対象になりうる |
| 2025年7月1日より前に設立し、その後に変更登記をした | その変更登記の際に、BO情報を補充する必要があった。補充していなければ、リスト対象になりうる |
| 2025年7月1日より前に設立し、変更登記をしていない | 次の変更登記と同時に補充する。自主的に、単独で補充することも可能 |
| すでに申告済み | 基準が改正されたことだけを理由に、再通知する義務はありません(財務省の回答)。ただし、出資や支配関係に実際の変更があれば、変更から10日以内に通知します(政令168/2025第52条1項)。新基準でBOが変わらないかは、念のため確認すると安心です |
ここでいう変更登記は、企業登録内容の変更登録と、変更の通知の両方を含みます。変更登記は、住所の移転、事業目的の追加、資本金の変更、法定代理人の変更などで発生します。店舗の追加は、手続き上は営業所や支店の設置の届出にあたることが多く、本社の登録内容の変更とは手続きが分かれます。そのため、店舗を増やすときの届出がBOの補充の契機になるかは、公開情報では確認できませんでした。この点は登記を担当する窓口にご確認ください。
自社がリストに載っているかを、企業側から直接確認できる公式の手段は、確認できていません。現地の会計担当や登記代行の方に、提出したBO名簿、受付・処理結果、現在の登録情報を確認してもらってください。
未申告の罰則は?政令288/2026の区分別まとめ
罰則は、政令288/2026/NĐ-CP(2026年7月21日施行)で定められています。政令122/2021/NĐ-CPを改正し、BO関連の罰金を追加したものです。報道で確認できた区分は、次のとおりです。
| 違反の内容 | 根拠条文 | 罰金(ドン・原則として組織に対する額) |
|---|---|---|
| 設立登記の時点で、BO情報を申告しなかった | 第46条 | 5,000万〜1億 |
| 2025年7月1日より前に設立した会社が、直近の変更登記でBO情報を補充しなかった | 第44条6項 | 7,000万〜1億 |
| BO情報の変更を通知しなかった | 第44条5項 | 3,000万〜7,000万 |
| BO情報が虚偽・不正確だった | 第43条 | 3,000万〜7,000万 |
| 当局の求めに応じた報告・情報提供をしない、または不正確だった | 第48条 | 5,000万〜7,000万 |
条文の番号は、政令288/2026による改正後の政令122/2021のものです。未申告の違反では、罰金に加えて、BO情報の補充も命じられます。
期限を過ぎて変更の登録や通知をした場合は、遅れた日数に応じた区分もあります(政令288/2026による改正後の第44条)。少し遅れただけで、一律に3,000万ドン以上になるわけではありません。
| 期限を過ぎた日数 | 処分・罰金(ドン・原則として組織に対する額) |
|---|---|
| 1〜10日 | 警告 |
| 11〜30日 | 1,000万〜2,000万 |
| 31〜90日 | 3,000万〜4,000万 |
| 91日以上 | 5,000万〜6,000万 |
表の「変更を通知しなかった」の3,000万〜7,000万ドンは、この遅延の区分とは別の、通知自体をしなかった場合です。また、遅延の区分を、設立時の未申告や初回の補充漏れにそのまま当てはめることはできません。
ニュースにある「7,000万〜1億ドン」は、表の2行目にあたります。報道でこの金額が目立つ理由は、公開情報からは分かりません。いずれにしても、すべての未申告にこの金額が当たるわけではありません。
なお、罰金額は、政令122/2021/NĐ-CPの第4条2項により、原則として組織(会社)に科される金額です。同じ違反でも、個人の場合は半額とされています。ただし、個人向けに別の金額が定められている場合は、そちらが適用されます。BOに関する各違反を、実際に会社と個人のどちらにどう科すかは、報道では確認できませんでした。指摘を受けた場合は、対象となる違反行為、適用条項、責任主体、違反時期、是正要求を確認してください。なお、2025年7月以降の行為に、2026年7月施行の罰則がどう適用されるかは、確認できていません。
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申告の進め方と期限・注意点
申告の流れは、次のとおりです。
- 親会社から個人までの出資構造を、図にまとめる
- 3段階の基準で、BOを判定する
- 設立、既存企業の初回補充、申告済み情報の変更のうち、どれに当たるかを確認し、該当する申請・通知書類を用意する。BOの名簿は様式第10号、補充や変更の通知には様式第12号などが案内されています。手続ごとの必要書類は、ポータルの案内で確認してください。様式は、通達68/2025/TT-BTCを改正した通達121/2026/TT-BTC(2026年8月21日施行)によります
- 国家企業登記ポータル(dangkykinhdoanh.gov.vn)でオンライン提出する。案内によれば、名簿には法定代理人の署名が必要とされています。
提出する情報は、氏名、生年月日、国籍、身分証の情報、所有割合や支配の根拠などです。
全国一律の提出期限は、確認できていません。確認できたのは、一部の自治体が点検に合わせて案内している提出期限です。これは法定の履行時期とは別のもので、案内日まで待てるという意味ではありません。すでに法定の時期を過ぎている場合に、案内日が罰則を猶予するかも、確認できていません。
| 自治体 | 案内された提出期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| クアンニン省 | 2026年10月31日(二次情報・原文未確認) | 財務局の公文書11059/STC-QLDN(10月12日付) |
| ダナン市 | 2026年11月30日 | 財務局の公文書14848/STC-DN&DKKD(10月20日付) |
| ホーチミン市 | 確認できていない | 要当局確認 |
クアンニン省の公文書は、確認できたのが二次情報(法律情報サイトの解説)のみで、原文は確認できていません。10月31日という期限は、同省の通知に基づくもので、他の地域に当然に及ぶものではありません。ホーチミン市は、通知を確認できないことが、期限がない、または待てるという意味にはなりません。ホーチミン市に会社がある場合は、市の財務局の企業登記部門に、期限と運用をご確認ください。
最後に、リスクや難しい点もお伝えします。
- 個人情報を登記当局に提出することに、抵抗を感じるオーナーもいます
- 出資構造が複雑な場合、BOの判定が分かれる可能性があります
- 不正確な申告にも罰金があるため、急いで誤った内容を出すのは避けるべきです
- 現地の方の名義を借りて出資している場合、実際の出資者をBOとして申告することと、その出資構造が適法になることは、別の問題です。実態と異なる人物を書けば、虚偽・不正確な申告として罰金の対象になりえます。いずれの形でも問題が生じうるため、申告の前に、出資の実態と登録内容が合っているかを、法務の専門家と確認してください
- 出資者が日本人オーナー1名の100%出資のように、構造が単純な会社なら、自社で進められる場合もあります
まとめ
- 3164号は、BO情報の申告が確認できない企業(報道では42,911社)を当局が優先して点検するための文書で、企業向けの新ルールではありません
- 対象は、2025年7月1日以降に設立または変更登記をして、BO情報がない会社です
- BOは、出資25%以上(直接・間接の合算)、実際の支配力、最大権限の管理者の順で判定します
- 罰金は区分で異なり、報道の「7,000万〜1億ドン」はその一部です
- 法定の履行時期とは別に、一部の自治体が提出期限を案内しています。ホーチミン市の分は、当局への確認が必要です
利害関係の開示として、弊社(フードコネクション)は、ベトナムでの法人設立や各種申請、バックオフィス面のサポートを行っています。BOの判定や、登記内容の確認でお困りの場合は、状況を伺うところからご相談いただけます。
● 参考資料
- 財務省・民間企業及び集団経済発展局 公文書3164/DNTN-GS(2026年10月7日付)の紹介記事:LuatVietnam「Công văn số 3164: Ưu tiên kiểm tra doanh nghiệp chưa kê khai thông tin chủ sở hữu hưởng lợi」https://luatvietnam.vn/tin-van-ban-moi/cong-van-so-3164-uu-tien-kiem-tra-doanh-nghiep-chua-ke-khai-thong-tin-chu-so-huu-huong-loi-186-114112-article.html (確認日:2026年10月21日)
- 42,911社・都市別件数:Vietstock(Tiền Phong転載)2026年10月20日 https://vietstock.vn/2026/10/se-kiem-tra-ke-khai-chu-so-huu-huong-loi-cua-gan-43000-doanh-nghiep-768-1504815.htm (確認日:2026年10月21日)
- 政令296/2026/NĐ-CP:LuatVietnam https://luatvietnam.vn/doanh-nghiep/nghi-dinh-296-2026-nd-cp-sua-doi-bo-sung-nghi-dinh-168-2025-ve-dang-ky-doanh-nghiep-441540-d1.html (確認日:2026年10月21日)
- 政令296号によるBO基準の変更点:Crowe Vietnam 2026年8月6日 https://www.crowe.com/vn/vi-vn/news/beneficial-ownership-key-changes-under-decree-296-2026 (確認日:2026年10月21日)
- 政令288/2026/NĐ-CP(罰則):Tạp chí Kinh tế – Tài chính(財務省所管)2026年7月23日 https://tapchikinhtetaichinh.vn/tang-manh-muc-xu-phat-vi-pham-dang-ky-doanh-nghiep-cao-nhat-den-100-trieu-dong-162631.html (確認日:2026年10月21日)
- BOの申告方法・様式:LuatVietnam「Hướng dẫn kê khai chủ sở hữu hưởng lợi của doanh nghiệp」https://luatvietnam.vn/doanh-nghiep/huong-dan-ke-khai-chu-so-huu-huong-loi-cua-doanh-nghiep-561-112768-article.html (確認日:2026年10月21日)
- ダナン市の期限(11月30日):ダナン市ポータル https://danang.gov.vn/vi/web/dng/w/doanh-nghiep-bo-sung-thong-tin-chu-so-huu-huong-loi-truoc-30-11-2026 (確認日:2026年10月21日)
- クアンニン省の期限(10月31日・二次情報):Thư viện Pháp luật https://thuvienphapluat.vn/hoi-dap-phap-luat/doanh-nghiep-nao-phai-ke-khai-chu-so-huu-huong-loi-truoc-31102026-138107522.html (確認日:2026年10月21日)
- 基準改正だけによる再申告義務の有無:政府ポータル(財務省の回答)https://baochinhphu.vn/thay-doi-tieu-chi-chu-so-huu-huong-loi-doanh-nghiep-co-phai-ke-khai-lai-10226082711354871.htm (確認日:2026年10月21日)
- 政令288/2026の罰則(遅延区分を含む):政府ポータル https://baochinhphu.vn/phat-den-70-trieu-dong-voi-vi-pham-ke-khai-dang-ky-doanh-nghiep-102260723160406003.htm (確認日:2026年10月21日)
- 罰金の適用原則(組織と個人):クアンガイ省の解説ページ https://truongquangtrong.quangngai.gov.vn/tin-tuc/nghi-dinh-so-288-2026-nd-cp-nhung-hanh-vi-va-muc-xu-phat-trong-linh-vuc-dang-ky-doanh-nghiep-can-luu-y2.html (確認日:2026年10月21日)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の手続き・判断は、専門家または当局にご確認ください。
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▽この記事の監修者
フードコネクションベトナム 林 吉祥
映像制作・フロントエンドエンジニア・WEBデザイナーを経て、2014年よりベトナムへ。
現地法人の立ち上げから携わり、4名の組織を40名まで育てたマネージャー。
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