ベトナムの日本食レストラン、価格帯で変わる勝ち筋|ミシュランから大衆チェーンまでの競合地図 – ベトナム進出支援・飲食店開業・出店ならグローカルコネクション
2026.07.20
ベトナムの日本食レストラン、価格帯で変わる勝ち筋|ミシュランから大衆チェーンまでの競合地図
フードコネクションベトナムディレクターの林です。2014年にベトナムに渡り、現在、ベトナム・ホーチミンを拠点に、飲食店様のホームページ制作・広告ディレクションや海外進出支援に携わっており、長年のホーチミン生活で培ったリアルな視点から、現地の気づきを発信していきます。
「ベトナムで日本食は人気らしい」という話はよく聞きますが、実際に出店するとなると、話はもう少し複雑です。日本食はすでに珍しいものではなく、価格帯・業態によって競合相手もターゲット層もまったく異なります。今回は、ベトナムの日本食市場を分解し、どこに勝ち筋があるのかを整理します。
目次
1. 認知度は定着。ただし「店舗数が少ない」は正確ではない
ベトナムでは日本食はすでに「ブーム」ではなく「定番」の外食カテゴリーです。寿司、ラーメン、焼肉、居酒屋、定食は都市部で広く受け入れられており、当社が確認する範囲でも、ホーチミン市の1区レタントン通り(「日本人街」と呼ばれるエリア)やファンビッチャン通り周辺だけで多数の日本食店が営業しています。
農林水産省が外務省の協力のもとで実施した最新調査(2025年11月公表)によると、海外の「日本食レストラン」数は、タイ約5,920店・マレーシア約2,200店に対し、ベトナムは約1,820店です。タイ・マレーシア・ベトナムはいずれも2023年の前回調査から店舗数が増加しています(世界全体では前回より約6,000店減少しているため、この増加はこの3か国に限った傾向です)。ここで注意したいのは、ベトナムは決して「店舗数が少ない国」ではないという点です。ASEAN域内ではインドネシア(約6,580店)・タイ(約5,920店)に次ぐ規模で、シンガポール(約1,140店)やフィリピン(約940店)よりは多い、調査上の店舗概数で見れば上位グループに位置します。ただし総人口(ベトナム約1億人・タイ約7,100万人・マレーシア約3,400万人)で見ると、ベトナムは人口当たりの店舗密度がタイ・マレーシアより低いと推計できます。「店舗の絶対数」と「人口当たりの密度」は別の指標であり、この記事では後者の意味で「手薄」という言葉を使います。
2. 価格帯・業態で見る、日本食市場のマップ
日本食と一口に言っても、価格帯・業態・利用目的によって顧客層・競合はまったく異なります。まず全体像を整理します。
| 区分 | 客単価の目安(1人・店内飲食) | 主な業態 | 主な利用目的 |
|---|---|---|---|
| 日常帯 | 20万VND未満 | チェーン系(牛丼・カレー等)、単品型の低価格寿司・ラーメン | 平日ランチ、日常使いの外食 |
| 週末・会食帯 | 20万超〜50万VND程度 | 居酒屋型、専門店(ラーメン・寿司)、焼肉店のアラカルト | 週末外食、少人数の会食 |
| 接待・体験帯 | 50万VND超(コース型は100万VND超も) | おまかせ寿司、コース型焼肉、ホテル併設レストラン | 接待、記念日、特別な体験消費 |
客単価は税・サービス料・酒類の有無、ランチかディナーかで大きく変わるため、あくまで目安です。同じ「日本食」でも、日常帯は現地資本との価格競争、接待・体験帯はブランド・体験価値の競争と、戦い方がまったく異なります。以下、区分ごとに現状を見ていきます。
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3. 日常帯・週末帯:大手チェーンの実績と、現地資本の追い上げ
日常帯〜週末帯では、日本の大手チェーンがすでに実績を積み重ねています。すき家は2016年にホーチミン市へ進出して以降、店舗を拡大しています。CoCo壱番屋も2018年にランドマーク81へベトナム1号店を構え、その後複数店舗に展開しました。松屋フーズホールディングスも2024年11月、Mプラザ・サイゴンにベトナム1号店を開店したと公式発表しており、同社公表情報ベースで、すき家・吉野家・松屋の主要牛丼チェーンがベトナムに揃っている状況です。
これらの出店実績は、日常使いの価格帯でも日本食への一定の需要があることを示唆しています。ただし、店舗数だけでは個別企業の採算性や市場全体の成長性までは判断できません。大手チェーンは資本力・調達規模・ブランド認知を前提にしており、そのまま個人店・中小規模事業者の採算性の証明にはならない点には注意してください。
● 現地資本の追い上げと、小型店の可能性
同時に見落とせないのが、現地資本による日本食店の増加です。ホーチミン市内では、現地資本による日常帯〜週末帯の寿司・ラーメン・焼肉店も多く見られるようになっています(当社の現地観察ベース)。一方で、メニューを絞り込み、現地調達比率を上げてオペレーションを効率化した小規模な日系ラーメン店・カレー店が、学生街や新興オフィス街など特定エリアで、ローカルに近い価格帯でも営業を継続している例が見られます(財務状況までは確認できないため、「利益を出している」とまでは言えません)。「日常帯は外資に不利」と一律に言い切れるわけではなく、業態設計とオペレーション次第で成立し得ます。
こうした日常帯〜週末帯の勝ち筋を考えるうえでは、「価格で現地資本と正面から競わない」という前提を置いたほうが現実的です。輸入原料・外国人管理者の人件費・外資法人としての各種コストを抱える立場からすると、原価率の低いメニューへの絞り込みが有効な選択肢の一つになります。なお、セントラルキッチンやフランチャイズを活用した多店舗展開は、単なるコスト削減策ではなく、事業所登録・食品安全・商標・ロイヤルティ・外国契約者税など追加の法務負担を伴います。まず優先すべきは、特定シェフやオーナー個人に依存せず、単店モデルとして再現可能な採算構造があるかどうかの検証です。
4. 接待・体験帯:ミシュランガイドが可視化した「体験型日本食」
高価格帯の動きと同時期に存在感を増したのが、ベトナムのミシュランガイド(MICHELIN Guide Hanoi & Ho Chi Minh City & Da Nang)です。2023年に初版が発表されて以来ベトナムは4年連続で選出対象となっており、2026年版(2026年6月4日発表)ではハノイ・ホーチミン・ダナンの3都市で、一つ星11軒・ビブグルマン72軒・ミシュランセレクテッド110軒・グリーンスター3軒が選出されています。対象は日本食に限らずベトナム料理・欧州料理なども含みますが、この動きと並行して、おまかせスタイルの寿司や高級焼肉といった「体験型の日本食」が、都市部の富裕層・駐在員・ビジネスパーソンの選択肢として存在感を増しています。ただし、ミシュランガイドの進出が高級日本食を「押し上げた」と断定するのは難しく、富裕層人口の増加やSNSによる情報拡散、ベトナム人シェフの技能向上など複数の要因が同時に進んでいる中で、ミシュランがその動きを可視化・後押しした可能性がある、という位置づけが妥当です。
現地の紹介記事では、ホーチミンの高級寿司はコース料金が日本の同種の店より抑えめな価格帯で提供される例が多いと紹介されています。中には、アジア各国の富裕層を顧客に取り込みながらベトナム人の板前が握る店も一部で見られ、日本料理の技術が現地の職人に継承されていく動きも出てきています(一部店舗の例であり、市場全体の構造として一般化はできません)。
接待・体験帯で意識すべきは、競合が日本食店だけではないという点です。この価格帯の顧客は、フレンチ・イタリアン・広東料理・ステーキ・高級ベトナム料理・ホテル併設レストランなど、他ジャンルの高級店とも比較検討します。「日本食内の競合が少ない」としても、価格帯全体での競争が弱いとは限りません。
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5. 立地・法務など、価格帯を問わず必要な実務条件
価格帯の選択は、立地選びとセットで考える必要があります。フーミーフン(旧7区)やタオディエン(旧2区)は、外資系企業の駐在員やベトナム人富裕層・中間層が集まるエリアで、接待・体験帯〜週末帯の日本食が成立しやすい土地柄です。レタントン通りのような「日本人街」は日本食店が密集しているぶん競合も多く、既存店との差別化が問われます。ダナンのような地方都市は、2023年からミシュランガイドの対象都市になっており(2026年版でも47軒が選出)、飲食・観光市場が発展しているため、「地方都市=競合が少ない」と単純に一括りにはできません。狙う価格帯・業態とエリアの相性を、店舗数の観察だけでなく実際の商圏調査で見極める必要があります。
● 酒類提供の手続き
酒類提供(居酒屋・焼肉・高級寿司など)について、従来はアルコール度数5.5度以上の酒類を店内消費用に販売する場合、店内消費用酒類販売の「登録」が求められていました。2026年7月1日から2027年2月28日まで、Resolution 66.18/2026/NQ-CPにより酒類の流通・卸売・小売・製造に関する一部行政手続・事業条件が暫定的に停止・簡素化されています。ただし、これが店内消費用の登録手続きにどこまで及ぶかは公開資料だけで一意に断定できず、出店地の管轄行政機関(2025年の地方行政「二層制」移行に伴い、区・郡級が廃止されコミューン級〈phường=坊、xã=社〉への移管が進んでいます)への個別確認が必要です。年齢確認や広告規制、食品安全といった義務まで緩和されるわけではありません。
● 消防(PCCC)と外資法人特有の準備期間
消防(PCCC)についても、2026年7月1日からResolution 66.18/2026/NQ-CPにより、公安当局による従来型の消防完工検収確認手続きは実施されない運用になりました(政府決議本文・複数省の公安機関公式発表で確認済み)。これは消防基準への適合義務がなくなるという意味ではなく、行政による事前・完工確認から、事業者の自己確認・記録保存と事後監督へ比重が移る制度変更です。建物用途、避難経路、厨房火気、消火設備などの適合性は、物件契約前から引き続き確認すべき最優先事項です。
外資企業が新設法人として出店する場合はこれに加えて投資登録証明書(IRC)・企業登録証明書(ERC)の取得(法定処理期間に加え、実務上の準備・補正期間を含めるとさらに数か月)が必要で、この間の空家賃も計画に織り込む必要があります(既存法人の持分取得・M&A・フランチャイズ加盟など、新設以外の進出形態では手続きの構造が異なります)。
6. まとめ:見るべきは「価格帯」ではなく、再現可能な採算構造
- 認知度と店舗数:日本食の認知度はすでに定着しており、ベトナムはASEAN域内でも日本食レストランの店舗数自体は上位グループに入るが、人口当たりの密度で見るとタイ・マレーシアより低い
- 価格帯・業態:価格帯・業態によって競合・客層はまったく異なり、「日本食だから有利」という一括りの捉え方はできない
- 日常帯〜週末帯:すき家・CoCo壱番屋・松屋など大手チェーンの実績があるが、資本力を前提にした結果であり、中小規模事業者の採算性を保証するものではない。一方、小型・現地調達型の店舗が日常帯で営業を継続している例もある
- 接待・体験帯:ミシュランガイドの進出とともに存在感を増しているが、初期投資・シェフ依存・回転率の低さに加え、他ジャンルの高級店との競合もあるため独自のリスクが大きい
- 外資特有のコスト:外資が不利になりやすいのは「家賃」そのものではなく、外国人管理者の人件費・輸入食材・法務会計コスト・投資登録手続きなど固有のコスト構造
- 法務・実務:酒類関連の手続き、消防基準への適合、IRC/ERCといった実務条件は、進出形態や出店地によって扱いが異なるため、最新制度と現地の運用を個別に確認する必要がある
「どの価格帯が有利か」という二者択一ではなく、自社が狙う立地・客数・客単価・原価・家賃・人件費・初期投資の組み合わせで、再現可能な利益を出せるかどうかを検証することが、参入の成否を分けます。
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▽この記事の監修者
フードコネクションベトナム 林 吉祥
映像制作・フロントエンドエンジニア・WEBデザイナーを経て、2014年よりベトナムへ。
現地法人の立ち上げから携わり、4名の組織を40名まで育てたマネージャー。
長年のホーチミン生活で培ったリアルな視点から、現地の気づきを発信していきます。

