ベトナムでクラウドキッチン開業|デリバリー特化で小さく始める飲食店進出ガイド – ベトナム進出支援・飲食店開業・出店ならグローカルコネクション
2026.07.07
ベトナムでクラウドキッチン開業|デリバリー特化で小さく始める飲食店進出ガイド
フードコネクションベトナムディレクターの林です。2014年にベトナムに渡り、現在、ベトナム・ホーチミンを拠点に、飲食店様のホームページ制作・広告ディレクションや海外進出支援に携わっており、長年のホーチミン生活で培ったリアルな視点から、現地の気づきを発信していきます。
東京で1店舗目を出すのと、いきなり銀座に旗艦店を構えるのとでは、リスクの重さがまったく違います。ベトナム進出も同じで、「実店舗をいきなり構える」以外にも、まずは小さく試す道があります。それが、クラウドキッチン・デリバリー特化での参入です。この記事では、初期費用をどこまで圧縮できるか、見落とされがちな手数料の実態、そして「デリバリー専業だから簡単」という誤解まで、フラットに解説します。気になる点があれば、記事の最後から気軽にご相談ください。
目次
1. クラウドキッチン/デリバリー特化とは何か
「実店舗を持たない」という選択肢がどういうものか、まずは言葉の定義から整理しましょう。
クラウドキッチンとは、客席やホールサービスを持たず、調理設備のみを備えてデリバリー・テイクアウト専業で運営する形態を指します。「ゴーストレストラン」「バーチャルレストラン」とほぼ同義で使われることも多く、注文はデリバリーアプリを通じて受け、配送はプラットフォーム側のドライバーに委ねるのが基本です。実店舗のような看板や外観による集客導線を持たない代わりに、賃料の高い一等地に出店する必要がないという特徴があります。
この形態が近年注目される背景には、飲食業界全体のコスト構造の変化があります。外食チェーンの拡大とセントラルキッチン化、クラウドキッチンの普及に伴い、味のばらつきを抑えるための業務用ソース・調味料・ベーススープへの需要も高まっているとされ、業界内でも一つの潮流として定着しつつあります。
2. 【比較表】実店舗型とクラウドキッチン型の違い
数字の話に入る前に、両者の違いを一覧で押さえておきましょう。
| 比較軸 | 実店舗型 | クラウドキッチン/デリバリー特化型 |
|---|---|---|
| 初期投資 | 高い(内装・什器・保証金) | 相対的に低い(簡易厨房・最小限の内装) |
| 立地条件 | 視認性の高い一等地が必須 | 視認性は不問だが、配送半径・臭気/騒音対策・建物用途や管理組合の許可は別途考慮が必要 |
| 集客導線 | 通行客+SNS+プラットフォーム | ほぼプラットフォームのアルゴリズムに依存 |
| 手数料構造 | 基本的に自社売上がそのまま利益に | 売上の20〜30%程度がプラットフォームへ流出 |
| 拡張性 | 1店舗=1業態が基本 | 同一キッチンで複数ブランドの運営がしやすい |
| 法人設立・許認可 | フル要件 | 原則フル要件(事業分類により手続きが変わる可能性があり専門家確認を推奨) |
この表からもわかる通り、クラウドキッチンは「初期投資と立地の制約」を軽くする代わりに、「手数料負担」と「集客をプラットフォームに委ねるリスク」を引き受ける構造になっています。
3. ベトナムのフードデリバリー市場の現在地
「そもそも今のベトナムでデリバリーがどれだけ伸びているのか」を押さえておくことは、参入判断の土台になります。
ベトナムのオンラインフードデリバリー市場(GMV=流通取引総額ベースの推定)は、2025年時点で推定21億ドル規模に達し、前年比19%増という力強い拡大が続いていると報じられています。ライドヘイリングとフードデリバリーを合わせた市場全体で見ると、2024年に40億ドル規模に達し、2030年には90億ドルまで成長すると予測されています。ただし、これらの数値はGMVなのか注文数ベースなのか、調査によって測定基準が異なる点には注意が必要です。市場そのものが伸びているタイミングであることは、参入を後押しする材料と言えるでしょう。
プレイヤーの顔ぶれにも大きな変化がありました。韓国系の「Baemin(配達の民族)」は、世界的な経済状況の悪化と現地での競争激化を理由に、2023年12月8日をもってベトナム市場から正式に撤退し、その後運営法人も清算手続きに入っています。さらに、インドネシア発の「Gojek」が展開していたフードデリバリーサービス「GoFood」も、2024年9月16日をもってベトナム市場から完全撤退しました。現在のマス市場は、GrabFood・ShopeeFoodの主要2社に集約されており、これに地場のbeFood(3位、都市によって3〜11%程度)や2025年7月にホーチミンでサービスを開始したXanh SM Ngonなどの新興勢力、そして中高級店・外国人向けに特化したニッチプレイヤー(Capichi等)が加わる構図になっています。
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4. 初期資本をどこまで圧縮できるか
「小さく始める」というのは、具体的にどのコストを削れるという話なのか、実務レベルで見てみましょう。
クラウドキッチンで削減できるのは、主に賃料・内装費・ホールスタッフ人件費の3点です。実店舗では、視認性の高い立地の賃料と、来店客に見せるための内装投資が損益分岐点を押し上げる大きな要因になりますが、デリバリー専業であればどちらも最小限で済みます。結果として、実店舗より少ない資本で事業をスタートできる可能性が高まります。
一方で、削減できるのはあくまで「物件・内装・ホール人件費」であり、法人設立や営業許可にかかるコストは実店舗と大きくは変わりません。この点は次の章で詳しく説明します。また、複数ブランドを同一キッチンで運営できるという拡張性も、クラウドキッチンならではの強みです。1つの調理人員・1つの物件で複数の売上チャネルを持てるため、初期投資に対するリターンの効率を高めやすい構造になっています。ただし、ブランドごとに商標・表示義務やアレルゲン管理が発生するほか、食品衛生証明書がどの範囲のブランド・メニューまでカバーするかは事前に確認しておく必要があります。
5. 見落とされがちなコスト構造:プラットフォーム手数料の実態
初期費用を抑えられても、運営中にかかり続けるコストを見落とすと、当初の想定より利益が残らないという事態になりかねません。
GrabFoodの手数料は、注文額の20〜30%が相場とされています(複数の業界メディア・実務者の報告に基づく目安で、実際の料率は契約・都市・店舗規模によって変動します)。契約時に交渉が行われ、初年度は20%程度からスタートし、2年目以降に25〜30%へ引き上げられるケースもあると報告されています。さらに、この手数料に対して8〜10%のVATが別途上乗せされる点にも注意が必要です(販売価格自体にかかるVATとは別の話です)。加えて、ホーチミン市・ハノイでは新規加盟店に対して登録パッケージ費用(120万ドン程度)がかかる場合があります。
ShopeeFoodも、概ね25%前後の手数料水準です。なお、集客導線をプラットフォームだけに依存したくない場合、自社SNSからの直接注文+GrabExpress等の配送サービスを組み合わせる運用も選択肢になります。
こうした中、日系スタートアップが運営する「Capichi」は、やや異なるポジションを取っています。ハノイ・ホーチミン・ダナン・ビンズンで展開されており、中高級・外資系店舗の掲載数に強みを持つとされ、多くの在ベトナム外国人や中高所得層のベトナム人ユーザーに利用されています。日本語を含む4ヶ国語に対応しており、GrabFood・ShopeeFoodのようなマス市場での価格競争に巻き込まれるより、「日本品質」を評価する客層に直接リーチしたい日系店舗にとっては検討に値する選択肢です。ただし、利用者数・配送網の規模ではGrabFood/ShopeeFoodに及ばないため、注文数のスケールは限定的になりやすいという点は踏まえておく必要があります。
6. それでも必要な法的手続き:「デリバリー専業だから簡単」という誤解
ここが最も誤解されやすいポイントです。外国人・外国企業がベトナムで自ら継続的に事業主体として飲食デリバリー事業を営む場合、法人格を持たずに営業するのは基本的に想定されていません(既存法人への業務委託やOEM的なスキームなど、個別の契約設計によって手続きが変わるケースもあるため、詳細は専門家に確認することをおすすめします)。
外国人・外国企業がベトナムで飲食業を営む場合、投資登録証明書(IRC)・企業登録証明書(ERC)の取得を経て法人を設立する必要があり、これはクラウドキッチンであっても実店舗であっても大きくは変わりません。飲食業は2015年1月のWTOサービス分野公約に基づく規制緩和により独資(外資100%)での参入が可能になっていますが、法人設立そのものを省略できるわけではない点は明確にしておく必要があります。なお、実務上は「客席を持たないデリバリー専業」がどの事業分類として扱われるかで手続きが変わる可能性も指摘されており、この点は進出前に専門家へ個別確認することを強くおすすめします。
また、他社が運営するシェア型キッチン・クラウドキッチン施設に入居して開業する場合、自社名義での食品衛生証明書の取得可否や、同一施設内での複数事業者の登記実務は、施設側の運営方針や管轄当局の運用によって扱いが異なる場合があります。この点も契約前に施設側・専門家の双方に確認しておくと安心です。
7. 成功のための着眼点
法的要件とコスト構造を踏まえたうえで、実際に成果を出すためにはどこに注意を払うべきでしょうか。
- メニュー設計:配送中の品質劣化が少ない商品(丼物・カレー・冷めても味が落ちにくい料理など)を優先し、繊細な食感が命の料理は専用パッケージの開発が必要になります。特にセントラルキッチン型で冷凍・チルド商品を展開する場合は、通常の即時調理販売より温度管理・トレーサビリティ・包装表示の規制論点が増える点にも注意が必要です。
- プラットフォーム内での見え方:ブランド認知がゼロの状態でスタートするため、初期は表示順位を上げるための広告費や、写真・メニュー説明の作り込みに投資する意識が欠かせません。
- 撤退ラインの事前設計:クラウドキッチンは実店舗に比べて身軽に始められる分、身軽に撤退・方向転換できるのも利点です。判断指標は売上だけでなく、手数料控除後の粗利、広告費込みの顧客獲得コスト、リピート率、プラットフォーム内の評価点数・表示順位まで含めて設計しておくと、感情的な判断を避けやすくなります。
8. リスクとトレードオフ
良い面ばかりを強調すると判断を誤らせるため、ここでは注意すべき点をフラットに整理します。
最大のリスクは、集客のほぼ100%をプラットフォームのアルゴリズムと販促に依存する点です。実店舗であれば通行客からの偶然の来店も見込めますが、クラウドキッチンにはその導線が一切ありません。次に、価格競争への巻き込まれやすさです。GrabFood・ShopeeFoodのようなマス市場のプラットフォームでは、頻繁なプロモーション合戦が常態化しており、値引き前提の集客から抜け出しにくい構造があります。また、手数料率は交渉次第で変動するとはいえ、新規参入かつ小規模な事業者は上限レンジに近い水準が適用されやすい点も踏まえておく必要があります。
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9. よくある質問(Q&A)
● クラウドキッチンなら法人設立は不要ですか?
いいえ、必要です。デリバリー専業であっても、投資登録証明書(IRC)・企業登録証明書(ERC)の取得を経た法人設立が前提となります。
● プラットフォームは1つに絞るべきですか?
一概には言えません。マス市場を狙うならGrabFood・ShopeeFoodが有力ですが、日系店舗として中高級・外国人層を狙うならCapichiのようなニッチプラットフォームとの併用も選択肢になります。
● 撤退や業態転換はしやすいですか?
実店舗に比べれば身軽です。ただし、法人格自体を維持する限り、法人運営に伴う税務・許認可の義務は継続する点に注意が必要です。
10. まとめ
クラウドキッチン・デリバリー特化での進出は、「いきなり実店舗は怖い」という方にとって、初期投資と立地の制約を軽くしながら市場に触れられる選択肢です。ただし、これは「リスクがなくなる」という意味ではなく、立地・内装のリスクを、集客をプラットフォームに依存するリスクへ置き換えるモデルだと理解しておくのが実態に近いでしょう。法人設立や許認可を省略できるという意味でもなく、あくまで物件・内装コストを抑えられるという範囲にとどまります。
- 市場動向:市場自体は年率2桁成長を続けており、参入のタイミングとしては追い風がある
- 手数料:プラットフォーム手数料は20〜30%+VAT(手数料に対する課税)が相場で、価格設計に織り込む必要がある
- プレイヤー動向:BaeminとGojek(GoFood)は既に撤退済み。現行のマス市場はGrabFood・ShopeeFoodの主要2社に、beFood等の地場勢が続く構図
- ニッチ選択肢:Capichiのような日系ニッチプラットフォームも選択肢になるが、スケールはマス市場より限定的
- 法的手続き:法人設立・食品衛生ライセンスは原則として実店舗と同水準の対応が必要。事業分類や施設形態によって手続きが変わる可能性もあるため専門家への個別確認を推奨
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▽この記事の監修者
フードコネクションベトナム 林 吉祥
映像制作・フロントエンドエンジニア・WEBデザイナーを経て、2014年よりベトナムへ。
現地法人の立ち上げから携わり、4名の組織を40名まで育てたマネージャー。
長年のホーチミン生活で培ったリアルな視点から、現地の気づきを発信していきます。

