
フードコネクションベトナム、ディレクターの親盛(おやもり)です。
現在、ベトナムのホーチミンを拠点に海外進出支援業務に携わっています。
「ベトナムでお店を出したい」と考えたとき、最初にぶつかる壁が「会社設立(法人登記)」です。
ネットで検索すると、「資本金は100万円でOK」「バーチャルオフィスで登記可能」「最短1ヶ月で設立」といった情報が出てくるかもしれません。しかし、はっきり申し上げます。
その「一般的な会社設立」の常識で飲食店を開業しようとすると、ほぼ間違いなく失敗します。
飲食店の法人設立は、IT企業やコンサル会社の設立とは難易度も審査基準も全く異なります。
「会社は作れたけれど、肝心の営業ライセンスが降りない」
「資本金が少なすぎて、駐在員のビザが出ない」……
そんな事態に陥らないために、店舗ビジネスに特化した「実務ベースの設立ガイド」を作成しました。きれいごと抜きの制度・運用実態ベースで解説しますので、本気で進出を考えている方はぜひ最後までお読みください。
【あわせて読みたい】ベトナム進出の全体像を知りたい方へ
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ベトナムで会社設立する際の法人形態一覧
ベトナムにはいくつかの法人形態がありますが、外国企業(日本企業)が進出する場合、選択肢は実質的に限られます。まずは基本を押さえましょう。
有限責任会社(LLC)
出資者(社員)が、出資額を限度として責任を負う形態です。
ベトナムの外資系企業において最も一般的な形態であり、飲食店開業においても9割以上がこの「LLC」を選択します。
- 外資100%: 可能
- 飲食店との相性: ◎(ベスト)
株式会社(JSC)
株式を発行して資金調達ができる形態ですが、設立には「株主が3名以上」必要です。
手続きがLLCより複雑で、将来的な上場を目指すような大規模プロジェクトでない限り、初期の飲食店進出で選ぶメリットは薄いです。
- 外資100%: 可能
- 飲食店との相性: △(初期進出には不向き)
合名会社・個人事業
これらは外資(外国人)には規制が厳しく、設立が認められていないケースがほとんどです。選択肢から除外して考えて問題ありません。
【図解】法人形態の比較
| 形態 | 外資100% | 飲食店への適性 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 有限責任会社 (LLC) | 可 | ◎ | まずはこれ一択 |
| 株式会社 (JSC) | 可 | △ | 株主3名以上が必須 |
| 個人事業 | 不可 | × | 外国人は設立不可 |
飲食店開業におすすめの法人形態【外資100%の場合】
結論として、日本企業がベトナムで飲食店を開業するなら、「有限責任会社(LLC)」一択です。その理由を深掘りします。
なぜ「有限責任会社(LLC)」がベストなのか
- メリット1:設立手続きが比較的シンプル
株式会社に比べて定款の設計や組織運営の規定が比較的簡素で済み、コストや時間を抑えてスピーディーに進出できる点が大きなメリットです。 - メリット2:経営の自由度が高い
複雑な機関設計が不要なため、社員の意向をダイレクトに反映でき、日本本社によるコントロールが非常に容易です。 - メリット3:対外的な信頼性が高い
外資系企業の間で最も一般的な形態であり、取引先や行政からの信頼性も高く、現地での契約をスムーズに進められます。
デメリット:資金調達の制限と譲渡の不自由さ
有限責任会社には、株式会社と比べて以下のデメリットがあります。
- 資金調達の制限: 「株式」を発行できないため、大規模な資金調達には不向きです。
- 出資持分の譲渡制限: 株式のように自由に売買できず、他の社員の同意が必要になるなど、手続きが複雑になる場合があります。
とはいえ、1店舗〜数店舗の展開であれば、これらのデメリットが経営の足かせになることはほぼありません。
ベトナム法人設立の流れ【STEP別・時系列】
ここからが本題です。飲食店の法人設立は、単なる書類仕事ではありません。「店舗物件」とセットで動かなければならない点が最大の特徴です。
STEP1|事前調査・戦略立案
法人設立に向けて動き出す前に、まずは「外資規制」についてクリアにする必要があります。
外資規制(特に飲食業の開放状況)の確認
飲食業は基本的にWTO公約で開放されていますが、規制は頻繁に変更されるため、最新の開放状況や条件を確認し、投資形態(100%外資のLLCか、合弁かなど)をこの段階で確定させます。
STEP2|「登記住所(物件)」の確保【最重要】
多くの人がここで勘違いをします。「まずは会社を作ってから、ゆっくり物件を探そう」と考えていませんか? ベトナムでは、それができません。
法人設立の申請(IRC申請)には、「登記する住所(賃貸借契約書やMOU)」が必須だからです。後のステップで取得する「食品衛生安全証明書」や「消防ライセンス」は、登記住所의物件に対して審査されるからです。
飲食店の鉄則:
「ライセンス取得が見込める店舗物件」を見つけ、仮契約(予約)をしてから、その住所で設立申請を行うこと。
リスク: 適当な住所で登記してしまうと、後で店舗が決まった際に「住所変更手続き(IRC/ERC書き換え)」が発生し、数十万円の追加コストと数ヶ月のロスが発生します。
【重要】物件選びは「消防法」との戦いです。
物件選びを間違えると、法人設立後の「営業ライセンス」が降りず、開業できない事態に陥ります。特に消防法や衛生基準の厳格化によるトラブルが急増しています。
ベトナム飲食店開業の壁を突破|営業ライセンス取得の完全実務マニュアル(消防・衛生・費用)
STEP3|投資登録証明書(IRC)の申請・取得
物件の目処が立ったら、いよいよ行政手続きです。これはプロジェクトの「企画書承認」であり、これが無いと次のステップ(法人登記)に進めません。
審査ポイント: 投資計画に実現可能性があるかが厳しくチェックされます。
期間目安: 約1.5〜2ヶ月。
STEP4|企業登録証明書(ERC)の申請・取得
IRCが降りたら、次は「企業登録証明書(ERC)」の申請です。これがいわゆる「法人登記簿」にあたり、取得できた時点で法的に会社が誕生します。
役割: 法人の証明、税コードの付与。
期間目安: 約0.5〜1ヶ月。
STEP5|設立後の初期手続き
会社ができても、まだ終わりではありません。営業開始に向けた基盤を整えます。
公印(カンパニーシール)の作成:ERC取得後すぐに作成します。
銀行口座の開設:「資本金口座(DICA)」と「取引口座(Current Account)」の2種類が必要です。
税務登録・電子署名設定:税務申告や電子インボイス発行に不可欠な設定を行います。
初期のライセンスフィー(税金)の納付:期限内に「門牌税(ビジネスライセンス税)」を納付します。
資本金の送金:IRC/ERCに記載された資本金を、ERC発行日から90日以内に全額送金します。期限を過ぎると罰金の対象となります。
期間目安: 約1ヶ月
ベトナム法人設立にかかる費用相場と内訳【重要】
「いくらで会社が作れるか?」は誰しも気になるポイントですが、依頼先によって「安心料」と「リスク」が大きく異なります。
| 依頼先 | 相場 | 特徴・リスク |
|---|---|---|
| 自分で設立(非推奨) | 実費のみ | 法律は複雑で頻繁に変わり、書類の不備で半年経っても設立できないケースが多発しています。 |
| ローカル企業(格安代行) | 数十万円〜 | 飲食店の事情(消防・衛生)を理解していない業者が多く、追加料金を次々請求されるトラブルも。 |
| 日系企業(コンサル) | 150〜250万円 | 日本語での完全サポート。飲食店特化のノウハウがある会社なら物件選びから相談可能です。 |
| 弊社(ハイブリッド) | 50〜150万円 | 日本語対応スタッフがメインで進行し、物件選びから設立後の会計・労務まで一貫サポートします。 |
飲食店開業における「資本金」の考え方【審査の実態】
ここが、ネット上の「まとめ記事」には書かれていない、制度上・運用上の重要ポイントです。
法律上の最低資本金と「実務上の審査基準」
法律上、最低資本金の規定はありませんが、実務上は違います。
当局は「この資本金で、本当に飲食店をオープンして維持できるのか?」を厳しく審査します。投資登録(IRC)の審査で落とされないよう、十分な額が必要です。
飲食店で求められる資本金の目安
実務上の安全圏としては「最低でも数万USD(数百万円〜1000万円クラス)」が推奨されますが、店舗規模によっては100万円以下でも設立可能です。
ただし、規模が大きいのに「小さく始めたいから」と資本金を低く設定すると、認可されないリスクが高いです。
資本金が少なすぎると「駐在員ビザ」が降りないリスク
もう一つの落とし穴が「ビザ」です。
日本人オーナーや店長が現地に住むための滞在許可(TRC)を取得する際、会社の資本金規模が審査基準の一つになります。
「会社は設立できた。店もできた。でも、日本人の自分がビザが取れなくてベトナムに入れない」というトラブルが実際に報告されています。
設立後の運用で注意すべき実務ポイント
電子VATインボイスの管理リスク
ベトナムでは電子インボイス(e-invoice)の利用が義務化されています。
インボイスに住所等の記載ミスが一文字でもあると、経費として認められず、罰金(ペナルティ)の対象になります。
外国契約者税(FCT)の落とし穴
日本の親会社へロイヤリティや利息を支払う場合、源泉徴収税(FCT)が発生します。
「租税条約があるから無税」と思い込み、申請手続きを見落として脱税扱いになるケースも多いため、専門知識が必須です。
よくある失敗例とリスク対策
名義貸し(ローカル名義)による「乗っ取り」リスク
「手続きが大変だから、ベトナム人の友人の名義で作ろう」
これは絶対にやめてください。
店が繁盛した途端、名義人である「法定代理人」に会社ごと乗っ取られる、資金を持ち逃げされるといった事件は後を絶ちません。
リスク回避には、手間がかかっても「外資100%」で設立すべきです。
行政対応・賄賂要求への対処
消防検査等で、担当官から理不尽な指摘を受けたり、暗に金銭(賄賂)を要求されたりすることがあります。
これに自力で対抗するのは困難です。事情に精通したコンサルタントを間に挟み、法令に基づいた毅然とした対応を行うことがスムーズな解決に繋がります。
FAQ|ベトナム法人設立でよくある質問
Q1:飲食店オープンまで、トータルでどれくらいかかりますか?
A. 物件探しを含めると、最短でも3〜6ヶ月は見通すべきです。
Q2:法人設立(IRC/ERC)と、店舗ライセンスは同時に進められる?
A. いいえ、基本的には順番です。まず法人を作り、その会社が主体となって内装工事を行い、その後に検査を受けます。
Q3:法人設立だけ依頼することは可能ですか?
A. 可能ですが、おすすめしません。物件選びがライセンス取得に直結するため、バラバラに依頼すると連携ミスでオープンが遅れる原因になります。
Q4:途中で業態変更(例:カフェ→居酒屋)はできますか?
A. 可能ですが、IRCの変更申請が必要です。数ヶ月の時間と費用がかかるため、当初の事業計画は慎重に決める必要があります。
飲食店開業を検討している方へ
ベトナム市場には大きな可能性がありますが、成功のためには事前準備と現地理解が欠かせません。
「まず何から始めるべきか知りたい」「自社に合う進出方法を相談したい」
そんな段階でも問題ありません。まずはお気軽にご相談いただき、ベトナム進出の可能性を一緒に整理しましょう。
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飲食店のベトナム進出支援公式サイトはこちら:https://www.foodconnection.jp/glocal/
どうぞお気軽にお問い合わせください。 よろしくお願いいたします。






























