フードコネクションベトナムディレクターの親盛です。現在、ベトナムのホーチミンを拠点に、日系飲食店様の海外進出支援やマーケティング業務に携わっています。

日々、多くの経営者様と打ち合わせをさせていただく中で、
「東南アジアへの進出を考えているが、ブランディング重視でシンガポールにするか迷っている」
「シンガポールは家賃や人件費が高いと聞くが、利益は残せるのか?」
といったご相談をいただきます。

シンガポールは、富裕層の多さとビジネスの透明性において、東南アジアで群を抜いています。ここで成功することは「グローバルブランド」としての証明になりますが、家賃と人件費の高騰は凄まじく、「緻密な勝算なしの進出は、数ヶ月で数千万円の資本を溶かす」ことになりかねません。

そこで本記事では、
「シンガポール進出のリアルなコスト感」
「外国人が直面するビザ・雇用規制の壁」
といった厳しい現実を含めて、経営判断に使える情報を徹底解説します。

▼ もし今、こんなことで迷っているなら

  • シンガポールで勝負できる資金力があるか確認したい
  • 「ブランド構築(シンガポール)」か「市場拡大(ベトナム)」かで迷っている
  • 激化するビザ要件(COMPASS)について知りたい

記事を読み進める前に、「検討すべき国はどこか」だけでも整理したい方は、まずはお気軽にご相談ください。

シンガポール・ベトナム進出の方向性を無料で整理する >

目次

1. シンガポール市場의 魅力と特性

シンガポールは、人口約600万人弱の小さな島国ですが、アジアのビジネスハブとして特別な地位を確立しています。

圧倒的な購買力と「2万円の壁」のなさ

1人当たりGDPは日本を大きく超え、世界トップクラスです。ランチで3,000円〜5,000円、ディナーで2万円〜5万円といった価格帯でも、価値があれば予約が取れない店になる市場です。「高くても良いものを食べる」という富裕層の厚みは東南アジア随一です。

「アジアのショーケース」としての機能

多民族国家であり、欧米の駐在員も多いため、シンガポールでの成功は「世界で通用するブランド」というお墨付きになります。ここを足がかりにドバイや欧州へ展開する際の「実績(ポートフォリオ)」として極めて有効です。

ビジネスの透明性

法人設立は最短1日。行政手続きは全てデジタル化され、新興国によくある「賄賂」や「不透明な行政指導」のリスクはほぼゼロです。ルールが明確であることは、日本企業にとって大きな安心材料です。しかし、その「明確なルール」こそが、飲食店開業における最大のハードルでもあります。次に、具体的な開業ステップと規制を見ていきます。

2. シンガポール飲食店進出のステップと重要規制

シンガポールは「ルールが明確」ですが「運用が極めて厳格」です。特に「ビザ」と「物件」で躓くケースが大半です。

① 法人設立と「現地取締役」の確保

会社設立(ACRA登録)自体はオンラインで完結し、最低資本金も1シンガポールドルから可能です。しかし、設立には「最低1名のシンガポール国民または永住権保持者(PR)を取締役として登記すること」が義務付けられています。 ※Employment Pass(EP)保持者は、原則としてこの「現地取締役」にはなれません。 信頼できる現地パートナーがいない場合、専門業者に「名義貸し(ノミニーダイレクター)」を依頼する必要があり、年間数十万円〜の維持コストが発生します。

② 物件確保とSFAライセンスの壁

ここが最初の難関です。シンガポール食品庁(SFA)の「Food Shop License」を取得する必要がありますが、物件の用途変更(Change of Use)は非常にハードルが高いです。最初から「飲食店可」の物件を選ばないと、契約後に営業許可が下りないという致命的なミスに繋がります。

③ 内装工事・食材輸入における厳格な基準

消防(SCDF)や配管(グリストラップ)の基準が極めて厳しく、施工にはライセンスを持った業者の起用が必須です。工期が遅れると、その分高い空家賃が発生するため、日系または信頼できるローカル業者の選定が鍵となります。

④ 日本食材の輸入規制

日本食レストランにとって重要なのが「食材の輸入」ですが、シンガポールは輸入規制も厳格です。 特に肉類、卵、生鮮魚介類などは、SFAが認定した供給元(農場・工場)からしか輸入できません。「日本の市場で買ったものをそのまま送る」ことはできず、正規の輸出入手続きとライセンスが必要です。

⑤最大の難関「就労ビザ(EP/COMPASS)」

現在、最大の壁がこれです。外国人を雇用するための就労ビザ(EP)は、単なる給与額だけでなく、2023年9月から施行された「COMPASS」というポイント制で厳格に評価されます。
・学歴
・給与水準(同業他社比較)
・国籍の多様性(日本人ばかり雇うと減点)
などがスコア化され, 基準に満たないとビザが発行されません。「日本人シェフを連れてきたいが、ビザが降りない」という理由で出店を断念するケースが増えています。
では、これらの厳しい規制や基準をクリアして開業する場合、実際にどの程度の資金が必要になるのでしょうか。

3. 進出にかかる費用目安

「世界一生活費が高い都市」とも言われるシンガポール。飲食店開業の初期投資は、ベトナムやタイとは桁が違います。(1SGD=115円で計算)

項目 目安費用(日本円) 備考
法人設立・ビザ手続 約100万〜200万円 エージェント費用含む
店舗家賃(月額) 約150万〜500万円 中心部50㎡で月200万円以上が標準
保証金(Deposit) 約300万〜2,000万円 家賃の3〜6ヶ月分が現金で拘束される
内装・設備工事 約3,000万〜8,000万円 人件費高騰により工事費は青天井
人件費(ローカル) 約40万〜60万円/人 調理補助クラスでもこの水準

初期投資の目安:7,000万円〜1.2億円

(保証金・内装費の高騰を織り込み)の資金調達が必要です。

各項目の補足

法人設立・ビザ手続
法人設立自体は安価ですが、就労ビザ(EP)の取得難易度が上がっているため、専門のエージェントへの依頼が必須です。また、ビザ審査をパスするために、ある程度まとまった資本金(数万SGD以上)の注入が推奨されます。

店舗家賃と保証金(Deposit)
一般的な路面店やショップハウスでは3ヶ月分程度ですが、集客力のあるショッピングモールでは最大6ヶ月分のデポジットを求められることがあります。この「現金が拘束されるコスト」を資金計画に入れておかないと、キャッシュフローが回らなくなります。

内装・設備工事
建設業界の人手不足により、施工費は高騰し続けています。日本と同等のクオリティを求めると、日本国内の2〜3倍の費用がかかることも珍しくありません。

人件費と外国人雇用規制(Levy・Quota)

外国人雇用税(Levy): 外国人スタッフを雇う場合、給与とは別に国に納める税金が発生します。S Pass(中技能外国人)で月額650 SGD(約7.5万円)〜、Work Permit(一般労働者)では雇用人数比率に応じて月額450〜850 SGD(約5万〜10万円)程度が毎月徴収されます。

外国人枠(Quota / DRC): 飲食業(サービスセクター)では、外国人雇用比率の上限(DRC)が35%と厳格に定められています。つまり、全従業員の約65%(3分の2)はローカル人材(シンガポール人・PR)でなければなりません。 「ローカルスタッフ2名に対し、外国人1名」といった厳しい比率が求められるため、ローカル人材が採用できないと、そもそもビザ枠が発生しません。飲食業界のローカル人材は極度に不足しており、このQuota遵守が最大のボトルネックです。結果、外国人依存度を極限まで下げる「省人化運営」が生き残りの必須条件となっています。

この圧倒的な高コスト構造の中で利益を残すためには、日本とは全く異なる「戦い方」が求められます。

4. シンガポールで生き残るための戦略

コストが高い市場で利益を残すためには、日本とは異なる戦い方が求められます。

薄利多売は不可、「高単価」を恐れない

家賃と人件費が高いため、薄利多売モデルは成立しにくいです。「客単価2万円以上」のハイエンド業態か、徹底的に回転率を上げるファスト業態かの二極化が進んでいます。中途半端な価格帯が最も苦戦します。

省人化・テック活用の必須性

人手不足は深刻で、採用難易度も高いです。QRオーダー、配膳ロボット、キッチンの自動化など、テクノロジーへの投資は「あれば便利」ではなく「ないと運営できない」レベルの必須事項です。

「日本人だけ」での運営からの脱却

前述のビザ規制(COMPASS)により、スタッフ全員を日本人にするのは制度的に不可能です。ローカルスタッフや、マレーシアなど近隣国のスタッフをマネジメントし、品質を維持する「教育力」が問われます。

ここまで見てきたように、シンガポール市場はハイリスク・ハイリターンです。そこで次章では、もう一つの有力候補であるベトナムと比較しながら、両国の特性を客観的に整理します。

5. 【徹底比較】ベトナム進出 vs シンガポール進出

貴社が比較検討することの多い「ベトナム」と「シンガポール」。並べて比較すると、「ハイリスク・ハイリターン」の質が全く違うことが分かります。

比較項目 ベトナム進出 🇻🇳 シンガポール進出 🇸🇬
初期投資 3,000万円で豪華な旗艦店が持てる。 3,000万円では小規模店すら困難。
固定費 低い。損益分岐点を下げやすい。 極めて高い。売上が止まると即座に経営危機。
競争の質 「新しさ」と「勢い」の戦い。 「本質的価値」と「資本力」の戦い。
スタッフ確保 豊富。ただし教育が鍵。 人手不足。採用難で閉店する店も。
お酒の提供 自由。深夜営業も盛ん。 ライセンス料は高いが, 富裕層の消費額大。

この比較から見えてくるのは、両国の「勝ち方」の決定的な違いです。

ベトナムは、圧倒的な成長率と低い固定費を活かし、「利益を積み上げながら多店舗展開を狙う」市場です。失敗しても傷は浅く、スピード感を持って修正が可能です。

一方、シンガポールは、世界中から集まる富裕層に対し、「圧倒的なブランド価値を示して高単価を取る」市場です。成功すれば「世界ブランド」としての称号が得られますが、一度歯車が狂うと、高額な固定費があっという間に資本を食いつぶします。

つまり、「どちらが良い国か」ではなく、「今の自社が求めているのは『実利(キャッシュフロー)』なのか『名声(ブランド)』なのか」という視点が不可欠です。

理論上の比較だけでなく、実際の失敗事例から学ぶことも重要です。次章では、シンガポールで起こりがちな撤退パターンを具体的に見ていきます。

6. 【失敗事例から学ぶ】シンガポール撤退のリアル

シンガポールでの失敗は、資金的なダメージが甚大です。よくある撤退パターンを紹介します。

事例①:人件費と「外国人枠(クォータ)」の壁

内容: 日本人店長を支える右腕として外国人スタッフ(S Pass)を採用したかったが、「ローカルスタッフ(シンガポール人・PR)」が採用できず、外国人枠(Quota)が発生しなかった。 結果、慢性的な人手不足で撤退。
教訓: 高い人件費を払ってでもローカルを雇わなければ、外国人の雇用枠すら得られないのが現実です。

事例②:家賃更新時の「追い出し」リスク

内容: 苦労して人気店に育て上げ、3年契約の更新時期を迎えた際、オーナーから「家賃1.5倍」を提示された。交渉の余地はなく、利益が出ないため撤退を余儀なくされた。
教訓: オーナー側の権利が非常に強く、人気店になっても家賃上昇で利益を吸い取られる構造があります。

ベトナムのリスクが「運営や文化の違い(ソフト面)」であるのに対し、シンガポールのリスクは「資金と法規制(ハード面)」です。資金が尽きた時点で即ゲームオーバーとなるため、シンガポールの方が「撤退までのスピードが速い」のが特徴です。

このようにリスクの質も、求められる覚悟も異なる両国。「結局, うちの場合はどちらを選ぶべきなのか?」と迷われる方も多いはずです。そこで次は, 実際によくいただく質問をもとに, 判断のヒントをQ&A形式で整理します。

7. 【よくある質問】シンガポール進出のQ&A

Q1. 日本人でもシンガポールで飲食店を開業・出店できますか?
A. 可能です。ただし「資金力」と「就労ビザ(EP)」のハードルは非常に高いのが現実です。
シンガポールでは、日本人を含む外国人でも飲食店を開業・出店すること自体は認められています。しかし、実務上の最大の壁は就労ビザ(Employment Pass/EP)です。
近年はCOMPASS制度により、単に会社を設立し給与を設定するだけではEPが取得できず、給与水準・学歴・職務内容・国籍バランスなどが総合的に審査されます。そのため、「日本人オーナー兼シェフが現場に立つ」前提での出店は難易度が高く、ローカル人材中心の運営体制を構築できるかが成否を分けます。
また、家賃・内装・人件費を含めると、現実的には7,000万円〜1.2億円規模の投資余力が求められるため、資金計画とビザ戦略を同時に設計することが不可欠です。

Q2. 日本の屋台(ホーカー)のような形式なら安く出店できますか?
A. 外国人企業・個人では法的に不可能です。 ホーカーセンターのストール(店舗)は、シンガポール国民向けの公募抽選制となっており、外国資本の参入は認められていません。

Q3. 為替(シンガポールドル高)の影響はどう考えるべきですか?
A. 「利益還流」には有利、「資金調達」には不利です。
円安・ドル高傾向にあるため、シンガポールで稼いだ利益を日本円に換算すると価値が上がります。日本への配当送金を目的とするなら非常に有利です。逆に、日本円で資金を調達してシンガポールに投資する場合、投資額が膨らむため負担増となります。

Q4. とりあえず数ヶ月、テスト出店できますか?
A. 短期貸し物件は少ないです。
ポップアップストア等のスペースはありますが、SFAライセンス(食品衛生許可)の取得義務は変わりません。手続きの手間とコストを考えると、数ヶ月単位のテストは割高になるケースが多いです。

ここまで、シンガポール進出に関してよくある疑問や不安を整理してきました。 これらを踏まえたうえで、最後に「それでもシンガポール進出が向いているのは、どんな経営者・業態なのか」を整理します。

8. 【結論】それでもシンガポール進出が向いている企業

圧倒的なコストとリスクを踏まえても、シンガポールに進出すべきなのは以下のような企業です。

グローバルブランド確立を目指すならシンガポール

  • 「利益」よりも「グローバルブランドの確立」を最優先したい
  • 客単価2〜3万円以上のハイエンド業態で勝負できる
  • テック活用や省人化オペレーションが確立している
  • 5,000万円〜1億円以上の投資余力がある

利益と多店舗展開を目指すならベトナム

  • 「まずは海外で利益を出して、キャッシュフローを作りたい」
  • 「初期投資を抑えて、多店舗展開を狙いたい」
  • 「日本人スタッフ中心のチームで、きめ細かいサービスを提供したい」

シンガポールは、もはや「飲食店を経営して利益を積み上げる場所」というより、「ブランドのショールームを維持する場所」になりつつあります。多額の資本を投じ、薄氷の利益率で戦う覚悟が必要です。
対してベトナムは、投資額に対する「利益の爆発力」と「多店舗展開のしやすさ」が圧倒的です。1店舗の利益で次の店舗がすぐに出せる、そんな「飲食店経営の醍醐味」を味わいたいのであれば、シンガポールよりもベトナムの方が、経営者としての自由度は遥かに高いと言えます。

「自社はどちらのフェーズにいるのか」
客観的な視点で整理したい方は、ぜひ一度ご相談ください。

シンガポール・ベトナム進出の方向性を無料で整理する >

9. シンガポールの繁盛店といえば?!

YouTubeチャンネル「個人店のミカタLAB」ではシンガポールの繁盛店を紹介しております。どのようにしてシンガポールで開業し人気飲食店になったのかをまとめております。ぜひご覧ください。

10. 他国の進出も比較したい方へ

海外飲食店進出は, 国ごとに「初期投資」「規制」「勝ちやすい業態」が大きく異なります。シンガポールは有力な選択肢の一つですが, ベトナム以外の国も含めて整理することで, 判断のブレを防ぐことができます。

▶ まずは5か国を横断比較したい方へ
【2026年最新版】東南アジア飲食店進出・5か国比較ハブガイド
(ベトナム/タイ/シンガポール/マレーシア/インドネシア)

上記記事では、 各国の進出条件・難易度・向いている企業タイプを 1ページで整理しています。

個別国の詳細を知りたい方はこちら
ベトナムでの飲食店開業・出店ガイド(低資本・自由度重視)
タイでの飲食店開業・出店ガイド(観光×多店舗展開)
インドネシアでの飲食店開業・出店ガイド(人口ボーナス市場)
マレーシアでの飲食店開業・出店(高単価・英語圏)

複数国を横断的に比較することで、「自社にとって最も勝率の高い国」が見えてきます。
自社の業態・資金規模・展開スピードを踏まえて、「どの国が最適か」を整理したい方は、お気軽に無料相談をご活用ください。

飲食店の海外進出を無料で相談する >

どうぞお気軽にお問い合わせください。よろしくお願いいたします。