2026年7月6日、クレジットカードの売上立替入金サービスを手がける「株式会社全東信」(大阪市)が、大阪地方裁判所より破産手続開始の決定を受けました。負債総額は約1,259億円と報じられており、2026年に入って最大規模の倒産となります。
キャッシュレス決済が主流となった現代の飲食店において、多くの店舗で「カード決済された売上が入金されない」という深刻な事態が懸念されています。最悪の場合、日々の現金が回らなくなる「黒字倒産」のリスクすら孕む今回の事件。
本記事では、全東信のシステムを利用している飲食店が①今すぐの応急対応、②資金繰りを守る公的支援、③今後の決済選び、の3つを順番に整理します。
📌 この記事の要点
- 全東信の端末は今後一切使えません。今すぐレジから外してください。
- 未入金分(未収売上金)を集計し、資料を保管してください。これが今後のすべての手続きの土台になります。
- お金がいつ戻るかは現時点で「未定」です。焦って諦めず、届出と公的支援の準備を並行して進めましょう。
目次
1. なぜ経営破綻したのか?背景にあるリスク
報道によると、全東信は新型コロナ禍による飲食店の休業・時短要請の影響で手数料収入が大きく減少していました。さらに2024年1月には、通常の審査では加盟店契約を結べない飲食店について他人名義で契約を結んだとする組織犯罪処罰法違反の疑いで、社員の逮捕や書類送検が発生。これにより信用不安が広がり、資金調達が困難になったことが引き金とみられています。
飲食店、特に個人店や小規模チェーンでは、日々のカード売上を早期に現金化して食材の仕入れや家賃に充てているケースが少なくありません。今回の未入金により、帳簿上は黒字であっても手元の現金が底を突く「キャッシュアウト(資金ショート)」のリスクが急速に高まっています。だからこそ、一刻も早い応急処置が必要です。
2. 飲食店が「今すぐやるべき3つのこと」
もし全東信の決済システムを利用している場合、店長や経営者の方はまず次の3ステップを大至急進めてください。
● ① 全東信の端末利用をいますぐ止める
全東信の公式Q&Aでは「クレジット端末機は今後一切使用できません」と明記されています。作動することがあっても、その売上はお店に入金されません。
レジから端末を外し、スタッフが誤って使わないよう保管してください(破棄や返却が必要かどうかはまだ会社から案内がなく、現時点では未定です。当面はそのまま保管しておけば大丈夫です)。お客様には「一時的に現金のみ」、または他の決済方法のご利用をお願いする貼り紙をレジ前に出しておきましょう。
● ② 未入金分を今すぐ集計する
「最後に全東信から入金があった日」を基準に、それ以降にカード決済された売上(全東信の呼び方では「未収売上金」)を集計してください。
集計するときは、取消・返金になった分や、別のルートで既に入金済みの分を間違えて含めないよう注意しましょう。レジのジャーナル、カード利用明細、契約書、売掛金台帳などは、印刷またはデータで保管しておいてください。これは今後の債権届出だけでなく、税務上の貸倒処理や公的支援の申請でも根拠資料として必要になります。
● ③ 破産管財人への「債権届出」の準備をする
未収売上金は法律上「破産債権」として扱われ、これまで通りの期日に入金されることはありません。今後、財産状況の確認が進み、配当(返金)の見込みが立った段階で、あらためて「破産債権届」の手続きが案内される予定です。
配当があるかどうか、あるとしてどのくらいの割合になるかは、全東信自身が「財産状況を確認中で、現時点では回答できない」としています。ここは正直、今のところ誰にも分かりません。ただ、届出をしておくことが、この先の公的支援や税務上の損失処理を進めるための前提になるので、諦めずに準備しておきましょう。届出の期間を過ぎると原則受け付けてもらえなくなるため、案内が来たら早めに対応することが大切です。
情報提供は債権者集会などでは行われず、全東信の公式サイトを通じてのみ更新される予定です。定期的にチェックしておきましょう。
株式会社全東信 破産管財人室
破産管財人:印藤弘二 弁護士(はばたき綜合法律事務所)
電話:06-4704-4681(受付 10:00〜17:00)
3. お金が足りなくなる前に。使える公的支援
手元の現金が心配になってきたら、早めに次の窓口へ相談してください。
● 政府も動き出しています(2026年7月10日発表)
経済産業省は7月10日、全東信の破産で影響を受ける事業者向けに、次の支援策を発表しました。
- 特別相談窓口の設置:日本政策金融公庫・沖縄振興開発金融公庫・商工組合中央金庫・信用保証協会に、全国378カ所の特別相談窓口を設置
- セーフティネット貸付の要件緩和:中小企業向け「セーフティネット貸付」の利用条件を緩和(通常必要な「売上高が前期・前々期比5%以上減少」といった要件を、今回に限り問わない)
- セーフティネット保証1号:適用に向けた手続きを開始し、信用保証協会での事前相談を開始
- 既存借入への配慮要請:日本政策金融公庫・商工中金・信用保証協会に対し、既存の借入についても返済猶予などの条件変更、融資手続きの迅速化、担保条件の緩和で柔和に対応するよう要請
● 1. 日本政策金融公庫の「セーフティネット貸付(経営環境変化対応資金)」
取引先の倒産で資金繰りが悪化した中小企業向けの融資です。通常は「直近3ヶ月の売上高が前年・前々年同期比5%以上減少」などが条件ですが、今回のような特別相談窓口が設置された事案では、この数値要件を満たさなくても、資金繰りに支障が出ている(またはそのおそれがある)ことを説明できれば対象になり得ます。
貸付限度額は中小企業事業で7億2,000万円、国民生活事業(個人事業主など)で7,200万円です。貸付利率は基準利率(中小企業事業2.65%、国民生活事業3.35%、2026年7月時点)で、担保の有無などにより変わります。最寄りの公庫支店、または普段お付き合いのある地方銀行・信用金庫に、直近の試算表や資金繰り表、未収売上金の資料を持って相談しましょう。
● 2. 「取引企業倒産対応資金」もあわせて検討を
こちらは、取引先の倒産による影響を対象にした別の融資制度で、もともと売上減少の要件がありません。食団連の案内によると、融資限度額は個人事業主・小規模事業者で別枠3,000万円、中小企業で別枠1億5,000万円、返済期間は10年以内(据置3年以内)です。
一部報道では「ゼロ金利」とも言われていますが、日本政策金融公庫の公式サイトには注釈が付いています。正確な金利・条件は、必ず最寄りの公庫支店に確認してください。全東信のケースでは、こちらの制度の方が直接的に対応している可能性があるので、上記のセーフティネット貸付と合わせて相談時に聞いてみることをおすすめします。
● 3. 信用保証協会の別枠保証「セーフティネット保証1号」
大型倒産の影響を受けた事業者向けに、通常枠とは別枠で融資額100%の保証を受けられる制度です。保証人は原則不要で、保証限度額は無担保8,000万円、普通2億円(いずれも通常の保証枠とは別枠)です。
対象になるのは、次のいずれかに当たる場合です。
- 全東信に対して50万円以上の売掛金債権(または前渡金の返還請求権)を持っている
- 50万円未満でも、全東信との取引依存度が20%以上ある
正式な指定はまだですが、事前相談は始まっているので、証拠資料の準備だけは今のうちに進めておきましょう。
● 4. 経営セーフティ共済(加入者向け)
加入している場合、解約手当金の範囲内で「一時貸付金」(30万円以上、5万円単位、利率0.9%・2026年7月時点)を利用できます。ただし全東信を今回の「取引先」として扱えるかは個別判断が必要なので、早めに中小機構の共済相談室に確認してください。
● 5. 税務・法務の専門家に相談する
回収不能になった売上金は、貸倒損失として処理し、税負担を軽くできる可能性があります。ただし、いつ・いくら損金にできるかは破産手続きの進み具合によるので、必ず顧問税理士に確認しましょう。
法務面では、顧問弁護士がいない飲食店向けに、食団連が飲食業界に詳しい弁護士のネットワーク(一般社団法人フードビジネスロイヤーズ協会)と連携し、無料の相談窓口を用意しています。食団連の会員である必要はなく、全国の飲食店から相談を受け付けています。
相談費用は無料(食団連が負担)
他人名義などで契約していた場合は別のリスクが生じることもあるため、早めに相談することをおすすめします(事業者の債権回収は法テラスの対象外になりやすいので注意)。
● 食団連(日本飲食団体連合会)への被害状況アンケートについて
食団連は、被害の実態を把握し、セーフティネット保証1号の活用の後押しにするため、被害状況アンケート(所要約5分)を実施しています。全東信を利用していた飲食店であれば、食団連の会員でなくても回答できます。
なお、食団連は今回の対応について「損失の補填や補償を求めるものではなく、飲食店が公的な制度を活用して資金繰りを確保できるよう、そのお手伝いに努める」という立場を明確にしています。
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4. これからの決済、どうする?
「今すぐ代わりの決済手段を確保したい」というお店が増えています。ただ、慌てて選び直す前に、まず一つ考えてほしいことがあります。
カード決済を今すぐ再開する必要が本当にあるか、少し立ち止まって考えてみてください。業態によっては、当面は現金のみで営業しながら、落ち着いて次の契約先を選ぶという選択肢も十分にあります。
再開する場合の選択肢の一例です(特定サービスの安全性を保証するものではありません。契約前に必ず最新情報をご確認ください)。
| タイプ | 主なサービス例 | 特徴・メリット |
|---|---|---|
| モバイル決済 | Square(スクエア)/Airペイ(エアペイ)/STORES 決済 | オンライン申し込みから数日で導入可能。まずは現金以外の決済手段を急ぎで確保したい場合に最適。 |
| QRコード決済 | PayPay/楽天ペイ/d払い など | すでに導入済みの場合は、カード決済が使えない間の強力な代替手段になります。 |
| 大手決済代行 | GMOペイメントゲートウェイ/SBペイメントサービス/三井住友カードの「stera」/JCBの「JMS」など | 運営母体の規模が大きい大手・上場企業グループのサービス。審査や端末配送に数週間〜1ヶ月ほどかかりますが、長期的な契約先として検討する場合の選択肢になります。 |
選ぶときに確認したいポイントは次の通りです。
- 運営母体の規模と情報開示状況:資本力のある大手ほど一般的に急な経営破綻のリスクは低いと考えられますが、契約前にご自身でも確認しましょう。
- 不自然な好条件の理由確認:「他社より入金が不自然に早い」「手数料が破格に安い」といった条件は、なぜそれが可能なのかを確認してから契約するのが安全です。
- 正規名義での契約:加盟店契約は必ず自店の正規名義で。他人名義や実態と異なる契約は、今回のような有事の際に公的支援や法的保護を受けられなくなるリスクがあります。
- 複数手段の確保:1社に依存せず、複数の決済手段を持っておくと、今後同じような事態が起きても営業を止めずに済みます。
5. よくある質問
● Q1. 全東信以外の決済会社も同じように危ないの?
今回は全東信個社の経営破綻によるものです。ただ、決済代行事業者には銀行のような明確な資産保全の義務が課されていないため、構造的なリスクはどの会社にもゼロではありません。契約前に、その会社の規模や情報開示の状況を確認しておくと安心です。
● Q2. 届出をすれば、未入金分は全額戻ってくる?
現時点では未定です。全東信自身も「確認中で回答できない」としています。大型の破産では配当が限定的になる傾向はありますが、本件がどうなるかは今のところ分かりません。ただ、届出をしておくことが、公的支援や税務処理を進める前提になるので、必ず行いましょう。
● Q3. 他人名義や実態と違う内容で契約していたら?
公的支援の対象外になったり、法的な保護を受けられなくなったりするリスクがあります。事業者の債権回収は法テラスの対象外になりやすいので、商工会議所の法律相談か弁護士に早めに相談してください。
● Q4. 新しい決済会社、どのくらいで使えるようになる?
サービスによります。モバイル決済系なら数日程度で使い始められる場合がありますが、据え置き型の端末は審査や配送の関係で数週間〜1ヶ月ほどかかることもあります。焦らず、まずは現金対応でしのぎながら検討しても問題ありません。
● Q5. 食団連(日本フードサービス協会など)への被害報告は必要ですか?
食団連は、影響を受けた会員飲食店の被害状況(利用の有無や概算の未入金額)の情報を呼びかけています。これは義務ではありませんが、業界全体の被害を国へ伝え、セーフティネット保証1号の「指定事業者」への早期登録を働きかけるための強力な後押しになります。会員店舗の方は、ぜひ事務局(info@shokudanren.jp)へ一報を入れて協力することをおすすめします。
6. まとめ
今回の破産は、多くの飲食店にとって突発的で、非常に苦しい状況だと思います。
ただ、やるべきことは「①端末を止める」「②未収売上金を集計する」「③届出と公的支援の準備を進める」の3つに整理できます。焦って決済会社を選び直す前に、まずこの3つを片付けてしまいましょう。
配当がどうなるかなど、まだ分からないことも多くあります。分からないことは分からないままにして、公式発表を待つ冷静さも大切です。
\ お店の資金繰り・今後の決済導入について相談する /
参考・出典
- 食団連【緊急・注意喚起】株式会社全東信の破産手続開始について(第1報・第2報・第3報)
- 株式会社全東信「破産手続に関するよくあるご質問(Q&A)」
- 経済産業省「全東信の破産手続開始により影響を受ける中小企業・小規模事業者への支援を実施します」(2026年7月10日)
- 事件番号:大阪地方裁判所 令和8年(フ)第3500号(破産手続開始決定:2026年7月6日正午)





























