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2026.08.10
なぜベトナム人は日系飲食店に殺到するのか?現地で支持を広げる4ブランドの成功パターン
フードコネクションベトナムディレクターの林です。2014年にベトナムに渡り、現在、ベトナム・ホーチミンを拠点に、飲食店様のホームページ制作・広告ディレクションや海外進出支援に携わっており、長年のホーチミン生活で培ったリアルな視点から、現地の気づきを発信していきます。
「ベトナムに進出するなら、日本の味をそのまま持っていけば喜ばれるはず」——そう考えている方、実は少し危険です。
2026年現在、ベトナムの主要都市では日系飲食店の活気が増しています。週末のPizza 4P’sやSushi Tigerの店先に並ぶ行列を見ると、現地在住者の間では「そこにいるのはほとんどがベトナム人」というのが実感でもあります。「日本食レストラン=在住日本人向けの高級店」というかつての構図は、少しずつ変わりつつあるようです。
本記事では、ベトナムで支持を広げている4つの日系飲食店ブランドを徹底分析し、彼らに共通する成功パターンを解き明かします。単なる成功事例の紹介にとどまらず、なぜそのブランドが選ばれ、逆にどんなブランドが埋もれていくのかまで踏み込んで考えていきます。これから進出を検討する飲食店オーナー様にとって、自社の勝ち筋を考えるヒントになれば幸いです。
なお本稿では、「日系飲食店」を日本本社の海外展開に限らず、日本人創業者が関与し、日本のクオリティを土台にしているベトナム発ブランドも含めて扱います。あくまで公開情報をもとにした4事例の分析であり、成功要因を科学的に実証したものではない点はあらかじめご了承ください。
目次
1. ベトナムの日系飲食店市場、いま何が起きているのか
農林水産省の2025年11月時点の調査によれば、ベトナム国内の日本食レストラン数は約1,820店にのぼり、2023年時点の約1,620店から着実に増加しています。ホーチミンの日本人街「レタントン」周辺は今や日本人だけでなく、地元ベトナム人や外国人観光客でも賑わう一大グルメエリアへと姿を変えました。
さらに象徴的なのが、2026年6月4日発表のミシュランガイド・ベトナム2026です(ミシュランガイド公式発表・現地報道各紙)。1つ星11店・ビブグルマン72店が3都市にわたって選出されており、ベトナムの外食シーンが「安くて美味しい」だけの市場から、価格帯や料理ジャンルの多様化が進む成熟した市場へと移行しつつあることをうかがわせる一つの材料と言えます。こうした土壌のなかで、日系飲食店は単なる「日本のブランド」としてではなく、ベトナムの外食文化そのものを牽引する存在になりつつあります。
ここで押さえておきたいのは、「日本食=高級・特別なもの」という構図がすでに崩れつつあるという点です。かつては駐在員向けの高価格帯が中心でしたが、今ベトナムで支持を伸ばしているブランドは、いずれも現地の人々の「日常」に入り込むことに成功しています。反対に言えば、日本での成功パターンをそのまま持ち込んだだけのブランドは、なかなか定着できずに苦戦しているケースも少なくありません。
まずは、これから紹介する4ブランドの基本データを一覧で見てみましょう。
| ブランド | 業態 | 1号店オープン | 店舗規模(2026年時点) | 主要客層 |
|---|---|---|---|---|
| Pizza 4P’s | ピザ | 2011年5月(ホーチミン) | アジア各地で30店舗以上(日本にも出店) | ベトナム人アッパーミドル層 |
| 浦江亭 | 焼肉 | 2004年(ホーチミン) | ホーチミンを中心に10店舗以上(ダナン・カンボジアにも展開) | ベトナム人ファミリー層・宴会需要 |
| Sushi Tiger | 立ち食い寿司 | 2021年12月(ホーチミン) | 姉妹店「Omakase Tiger」、2025年ハノイにも進出 | 20〜30代のトレンド層・外国人 |
| 鶏そば ムタヒロ | ラーメン | 2018年(ホーチミン) | ホーチミンで専門特化、現在も高評価を維持 | ラーメン愛好家・若者 |
開業時期も業態も価格帯もバラバラなこの4ブランドですが、共通しているのは「日本のクオリティ」と「ベトナムの生活実感」を両立させている点です。一つずつ、その勝ち方を見ていきましょう。
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2. Pizza 4P’s|自家製チーズと「特別なオアシス」戦略
日系でありながら、今やベトナムを代表するグローバルピザブランドに成長したPizza 4P’s。サステナビリティの文脈でも、The New York TimesやBBCなど世界的なメディアから注目を集めています。
● 基本データ
2011年5月、ホーチミン・レタントンの路地裏に1号店をオープン。当初は1店舗のまま数年が経過しましたが、そこから一気に基盤ができて急拡大しました。現在はホーチミン・ハノイ・ダナンを中心に、アジア各地で30店舗以上を展開し、2023年には日本初出店となる店舗を東京・麻布台ヒルズにオープンしています。客層はベトナム人のアッパーミドル層(若者・カップル・ファミリー)が中心です。
● 受け入れられたポイント
自家製の新鮮なブッラータチーズを丸ごと乗せたピザの、圧倒的なビジュアルと美味しさ。そして各店舗を「くつろげる特別なオアシス」として異なるコンセプトでデザインし、「4P’sに行くこと自体がステータス」というブランド価値を築いた点にあります。単なる飲食店ではなく、体験そのものを売っているのです。「Farm to Table(生産者から食卓まで)」という一貫したストーリーも、SNS世代のベトナム人に強く刺さっています。
● ローカライズの工夫
「食事を大勢でシェアする」というベトナムの食文化にしっかり対応しながら、魚醤(ヌクマム)や発酵エビペースト(マムトム)を使ったピザなど、現地の味覚に寄り添ったメニューを定期的に投入。日本発というより「ベトナム発の本格ピザブランド」として認知されているのが、このブランドの強さです。実際、創業者は元サイバーエージェント勤務の日本人夫妻ですが、ベトナムで起業し、ベトナムを本拠地として世界へ展開しているという成り立ちそのものが、現地との距離の近さを物語っています。なお、ここまでの規模拡大には店舗コンセプトの強さだけでなく、投資ファンドからの資金調達など資本面での戦略も並行して進められてきたとみられ、成功要因はマーケティング面だけに限られません。
3. 浦江亭|20年愛される「無煙×ファミリー」焼肉のパイオニア
ベトナムにおける日本式焼肉のパイオニアであり、ファミリー層から絶大な支持を得ている老舗ブランドです。
● 基本データ
2004年(一部資料では2005年)、大阪発祥の焼肉店がホーチミン3区に1号店を開業しました。当初は中心街から離れた立地で日本人客しか獲得できず苦戦しましたが、その後の移転・大型化戦略が功を奏し、現在はホーチミンを中心に10店舗以上、ダナンやカンボジアにも展開する大型チェーンへと成長しました。客層はベトナム人ファミリー層、企業の宴会・グループ利用が中心です。
● 受け入れられたポイント
「焼肉=煙が立ち込めるストリートフード」というイメージが強かったベトナムに、無煙ロースター付きの清潔で個室感のある和風空間を持ち込んだことが転換点になったと考えられます。ベトナム人が安心して家族で食事ができる場所を提供し、さらに肉のクオリティに対してコストパフォーマンスが高いと感じさせるメニュー構成が支持を集めています。店舗デザインにこだわったことで、入り口でベトナム人が写真を撮ってSNSに投稿する現象が起き、それが拡散されてあっという間に人気店になったという経緯も見逃せません。
● ローカライズの工夫
ベトナム人が好む甘めで濃厚なタレ、大人数向けのコンボ(セット)メニューを充実させ、スープやご飯ものなど現地好みのサイドメニューも豊富に用意。「肉を焼く」という行為を、家族の団らんイベントへと昇華させた点が、20年以上にわたって愛され続けている理由です。ホーチミンの一等地に居を構えながらも、韓国系や現地資本の焼肉店との価格競争に巻き込まれず「ブランド力」で勝負し続けている点も、後発ブランドが学ぶべきポイントと言えるでしょう。
4. Sushi Tiger|「安い・早い・旨い」で寿司の常識を覆した新星
ホーチミン日本人街の路地裏から火がつき、現地の若者の間で「寿司=カジュアルでクールなもの」へと概念を変えた新世代チェーンです。
● 基本データ
2021年12月13日、ホーチミン・レタントンにグランドオープン。ベトナム初とも言える本格的な「立ち食い寿司」スタイルで注目を集め、姉妹店「Omakase Tiger」も展開。2025年にはハノイにも回転寿司業態で進出するなど、開業からわずか数年で急成長を遂げています。客層は20〜30代のトレンドに敏感なベトナム人の若者や外国人が中心です。
● 受け入れられたポイント
一貫50円〜(参考価格)というリーズナブルさでありながら、目の前で職人が握る本格派の江戸前寿司。日本の横丁のようなエネルギッシュな空間(洋楽やPOPが流れる明るい雰囲気)で「安い・早い・旨い」を提供し、寿司を「特別な日のご馳走」から「気軽に立ち寄れるはしご酒の一軒」へと再定義しました。オープン後は海鮮丼ランチなど派生メニューも次々と展開し、ディナー需要だけでなくランチ需要も取り込んでいる点が、成長の速さにつながっています。
● ローカライズの工夫
炙りサーモンやチーズ、マヨネーズを効かせるなど、現地で好まれる濃厚なネタを積極的に採用。参考価格で約600円からの格安海鮮丼を用意するなど、徹底して「現地の人の手が届く価格」に落とし込んだことが、若い世代の心をつかんだ理由の一つと考えられます。開業からわずか数年でハノイへ展開した速さは、コンセプトそのものが強力な「型」として横展開できる可能性を示しています。
Sushi Tigerのユニークな点は、「寿司=カウンターでかしこまって食べるもの」という日本的な常識をあえて崩し、立ち食い・ワイワイ感のある空間にリメイクしたことです。日本国内でも回転寿司やスタンディング業態は一定の支持がありますが、ベトナムではまだ新しい体験として受け止められ、若者にとっての「初めての本格寿司体験」の入り口になっている側面があります。興味深いのは、ハノイ進出時には立ち食いではなく回転寿司業態へと形を変えている点です。つまり横展開できたのは「立ち食い」という提供方式そのものではなく、「安い・早い・旨い」というブランドコンセプトの核であり、都市や客層に応じて提供方式を柔軟に変えられる強さが、このブランドの拡張力を支えています。
5. 鶏そば ムタヒロ|豚骨全盛の市場でニッチを制した専門店戦略
東京・国分寺発祥のラーメン店でありながら、ホーチミンで地元の胃袋をしっかりとつかんでいる実力派ブランドです。
● 基本データ
2018年、ホーチミン・レタントンの路地裏奥にひっそりと開業。派手な出店戦略ではなく口コミで評判が広がり、2026年8月時点でも高評価を維持し、地元グルメメディアの人気ラーメン店特集にも継続して選出されています。運営側の説明によれば、客層は日本人だけでなく、顧客の半数以上がベトナム人のラーメンファンや若者だといいます。
● 受け入れられたポイント
当時のベトナムで主流だった濃厚な豚骨ラーメンとは一線を画す、洗練された「鶏白湯」「鶏そば(醤油・塩)」を提供。ホーチミンのラーメン店が豚骨や味噌のこってり系に偏っていたなかで、あっさり系のポジションを確立できたことが、差別化要因の一つになったと考えられます。他の3ブランドと比べて店舗数を拡大せず、1店舗の専門性を磨き続けているスタンスも特徴的で、「規模の拡大」だけが成功の道ではないことを示しています。
● ローカライズの工夫
ベトナムのフォーやフーティウには牛・豚・鶏・魚介など様々なスープがありますが、ムタヒロはその中でも「鶏ベースのクリアなスープ」に日常的に親しんでいる層がいる点に着目し、豚骨よりも食べやすいヘルシーな麺料理として自社の立ち位置を確立——というのが運営側の説明です。さらに現地で手に入るソフトシェルクラブを使った「カニそば」など、現地食材を活かしたプレミアムな限定メニューを1日限定食数付きで定期的に投入し、リピーターを飽きさせない工夫を続けています。
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6. 4ブランドに見える「成功パターンに共通する3つの視点」
規模も業態も価格帯も異なる4ブランドですが、成功の裏には共通する視点が見えてきます。ただし、これは4つの成功事例のみを分析した仮説であり、同じ条件で撤退していったブランドとの比較データに基づくものではない点はご留意ください。
● ① 「日本クオリティ」への強いこだわりを崩さない
自家製チーズ、無煙ロースター、鶏白湯スープ、目の前で握る職人技——いずれも、味やクオリティに対する強いこだわりが感じられます。これが「安かろう悪かろう」ではない、日系ブランドとしての信頼の土台になっていると考えられます。ベトナムでは「日本のもの」というだけで一定の期待値が生まれる一方、その期待を裏切ると評判は一気に落ちるという側面もあります。この4ブランドはいずれも、その期待に応え続けている点が共通しています。
● ② ベトナム人の「利用シーン」を徹底的に現地化する
「誰と、どんな気分で、どうやって食べるか」という利用シーンへの理解が徹底しています。家族で安心して焼肉を楽しみたい浦江亭、友達と気軽に立ち寄りたいSushi Tiger、SNS映えする特別な体験を求めるPizza 4P’s、飲んだ後の締めに立ち寄りたい鶏そばムタヒロ——それぞれが異なる利用シーンにきっちりと応えています。日本での成功メニューをそのまま輸出するのではなく、「ベトナムでこの店はいつ・誰と使われるのか」を先に設計している点が共通の思考プロセスです。
● ③ 価格帯とブランド体験のバランス設計
高級路線に偏らず、かといって値下げ競争もしない。Sushi Tigerの「一貫50円〜」や浦江亭の「コスパの良いコンボメニュー」のように、現地の人が手を伸ばせる価格帯を維持しながら、店舗デザインやストーリー性でブランド価値を演出する——この両立ができているブランドが、結果として長く愛され続けています。逆に、価格だけを現地化して体験の質を落としてしまうと、数多く存在するローカル資本の飲食店との差別化ができず埋もれてしまうリスクがあります。
7. これから進出する企業への示唆
4ブランドに共通するのは、「日本クオリティへのリスペクト」を担保しながら、ベトナム人の生活シーンを徹底的に現地化している点です。裏を返せば、これから進出する飲食店にとってのハードルは「日本の味を持ち込むこと」ではなく、「現地の生活にどう溶け込ませるか」の設計にあるとも言えます。
とはいえ、これらの分析はあくまで「すでに大きく成功した事例」からの逆算です。実際に自社ブランドがベトナム市場でどう受け入れられるかは、現地の物件事情、競合状況、ターゲット層の生活動線など、実際に現地を見てみないと見えてこない部分も多くあります。「うちの業態はベトナムでウケるだろうか」という問いに対する答えは、机上の市場調査だけでは半分しか見えません。
今回ご紹介したような繁盛店の実際の空間づくりや客層、相場感を肌で確かめたうえで、進出の可能性を検討いただけます。ここでいう「小さく始める」とは、無許可での試験営業を意味するのではなく、まず低コストな視察・調査段階から着手し、実際に出店を決めた際に本格的な投資へ移行するという、投資規模の段階的な引き上げを指します。実際に出店を決めた際には、スタッフ採用を含む運営代行、自社物件を活用した低コストな店舗出店、そして投資・企業登録や食品衛生・酒類提供など案件ごとに必要となる各種手続きの整理までを一括でサポートする体制も整えています。検討段階から実行段階まで、段階を踏んで小さく始め、見極めながら広げていく——それが、ベトナム市場で長く愛されるブランドを作るための、遠回りに見えて実は一つの現実的な道筋です。
● よくある疑問
- Q. 日本で人気の業態なら、ベトナムでも同じように成功できますか?:今回の4事例が示す通り、業態の人気そのものよりも「現地の利用シーンに合わせて再設計できているか」が成功を分けています。日本での実績は強力な武器になりますが、そのままの持ち込みでは苦戦しやすいという点は押さえておく必要があります。
- Q. 高級路線と低価格路線、どちらを狙うべきですか?:どちらか一方の正解があるわけではありません。浦江亭やSushi Tigerのように中間〜手頃な価格帯でブランド体験を演出する道もあれば、富裕層向けの高級路線で勝負する道もあります。重要なのは、狙う客層の利用シーンと価格帯、店舗体験の一貫性が取れているかどうかです。
- Q. 小規模な個人店でも、こうした成功パターンは参考になりますか?:むしろ参考になります。鶏そばムタヒロのように、店舗数を拡大せず1店舗の専門性を磨き続ける戦略でも、ニッチなポジションを確立できれば長く愛される店になれます。規模の大小より、利用シーンの設計とクオリティへのこだわりが本質です。
ベトナム市場での成功のヒントを、ぜひ次の一歩につなげてください。
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▽この記事の監修者
フードコネクションベトナム 林 吉祥
映像制作・フロントエンドエンジニア・WEBデザイナーを経て、2014年よりベトナムへ。
現地法人の立ち上げから携わり、4名の組織を40名まで育てたマネージャー。
長年のホーチミン生活で培ったリアルな視点から、現地の気づきを発信していきます。

